「春」




   詩 : 石垣 りん




 ちいさい森のはずれに

 今年も桃が咲いた。




 去年とそっくり

 同じ景色で

 その間に月日が流れたことなど

 うそのよう

 その間に人が死んだり

 生まれたりしたことなど

 まるでなかったよう。




 季節は

 巡る来るたびに取り出される

 一枚の衣装で

 過ぎれば

 薄く薄く折りたたまれる。




 ちいさい森のはずれに

 今年の桃が咲いた。