「おやすみなさい」


   詩 : 石垣 りん




 おやすみなさい。



 夜が満ちて来ました

 潮(うしお)のように。

 ひとりひとりは空に浮かんだ

 地球の上の小さな島です。



 朝も 昼も 夜も

 毎日

 何と遠くから私たちを訪れ

 また遠ざかって行くのでしょう。



 いままで姿をあらわしていたものが

 すっぽり海にかくれてしまうこともあるように。

 人は布団に入り

 眠ります。



 濡れて、沈んで、我を忘れて。



 私たち 生まれたその日から

 眠ることをけいこして来ました。

 それでも上手には眠れないことがあります。



 今夜はいかがですか?



 布団から やっと顔だけ出して

 それさえ 頭からかぶったりして

 人は 眠ります。

 良い夢を見ましょう。



 財産も地位も衣裳も 持ち込めない

 深い闇の中で

 みんなどんなに優しく、熱く、激しく

 生きて来たことでしょう。



 裸の島に 深い夜が訪れています。

 目をつむりましょう。

 明日がくるまで。



 おやすみなさい。