「鮎」


   詩 : 石垣 りん




 さかのぼるのよ。



 どこか知らない

 知らないところへ

 私たち。



 空には幾筋もの流れ

 かつてちちははが

 光に濡れてそこをたどった

 地図にない川。



 いま私の中の血が

 私に命じる

 帰って行けと。



 ふしぎなふるさと

 やがて何事かを果たし終わるところ。



 初夏の早瀬に

 つかのま見せた魚影

 細い指先

 あれはだれ?



 こちらへ

 と言って消えた。