「海辺」 詩:石垣りん 「海辺」 詩 : 石垣 りん ふるさとは 海を蒲団のように着ていた。 波打ち際から顔を出して 女と男が寝ていた。 ふとんは静かに村の姿をつつみ 村をいこわせ あるときは激しく波立ち乱れた。 村は海から起きてきた。 小高い山に登ると 海の裾は入江の外にひろがり またその向こうにつづき 巨大な一枚のふとんが 人の暮しをおし包んでいるのが見えた。 村があり 町があり 都がある と地図に書かれていたが、 ふとんの衿から 顔を出しているのは みんな男と女のふたつだけだつた。