治療にはまったく関係のない話なので、わざわざ読んでいただく必要はありません。
お寺の手伝いをしている時の話題はそのことばかりだった。
寺の慣習はどうたらで、その為に自分は今こういう手伝いをしているとか、車で町まで買い出しに行ったとか。
私は若い時から強烈な無神論者なので、寺の話にはまったく興味がない。
寺の話と一緒に坊さんの暮らしぶりだの、それにまつわる説教だのを送ってきたが、どう返答していいのかもわからなかったので触れないでいた。
これに関しては自分の趣味と違い、ただ書いて満足するだけだったようで私の反応が無くても気にも止めてないようだ。
助かった。
お盆が終わって彼女が東京に戻ってきて数日後、私は待ちに待ったラストケモの日を迎えた。
3クール目が全身蕁麻疹で大変な目に遭ったので、ラストだけは無事にやり過ごしたいと緊張しながら最後のクールを迎えていた。
LINEの内容もケモ中は思った以上に気持ちに余裕が持てなかったとか、まとめや反省みたいなことが多かったと思う。
そのせいか彼女はまたもや、がん治療中の過ごし方や自分の親戚のがん患者の話を送ってくるようになった。
「がんになった私の親戚は皆再発する度に『もっと色々と気を付ければ良かった』と必ず言います。その度に、再発してそんなこと言うくらいなら実際にもっと気を付けてたら良かったのに、と思います。サクラ先生はまだ若いし、色々改善するべき点があります。食生活や生活環境、ともすれば今までの人間関係も見直すべきです。色々と書きましたが、変な人が何か言っているな程度に思ってくださいね」
変な人…のくだりは、部活の時の爆発で私を戸惑わせたという自覚が多少あってのことらしい。
この人は再発してショックを受けている人に向かって口には出さずとも自業自得と思うんだ…と思い、私も再発したらきっと「それ見たことか」と思われるんだろうな、とも思った。
私は返信に
「再発したご本人が一番ショックなのだろうから、話を聞いてあげるだけでいいのではないでしょうか。私自身のことは自分でできる範囲で頑張りたいと思います。貴女を変な人などとは思いませんが、人にうるさがれるようなことをきちんと言ってくれる人なのだな、という印象を持っています。いつもありがとうございます」
と書いた。
「言いづらいこともきちんと言ってくれる人」とか書けば良かったのだろうけど、もうこの時は「押しつけがましくてうるさくて鬱陶しい」しか頭になくて、他の大人な言葉が浮かんでこなかった。
もういいや、そのまま書いちゃおう、それで怒ったらそれでいいやと気軽に返信してしまった。
すると
「サクラ先生にはがんに関する私の真意が伝わっていません がんは糖質を養分に成長します。糖質を避ける食生活が大切なんです。それと同時にストレスも大敵です。今までの生活を改めることを考えないといけません。
忌憚なく申し上げさせていただきます。
サクラ先生の今までの人間関係ってその年齢になってまで、そんな希薄なものだったのですか
私には、私が助けを求めたら手を差し伸べてくれる家族や親戚や友達がいます。
サクラ先生のお話からは周囲にそのような人がいるようには感じません。
今こそ、今までの交友関係を見直す時だと思います」
思いっきり反応された
正直、ちょっとだけ「待ってました」と思った
「うるさいことを…」に反応したらしいけど、まさかリアルな人間関係にまで話が飛ぶとは
さすがに明らかに踏み込み過ぎの内容にはカチンときた。
「貴女に私の交友関係が希薄だと言われることには抵抗があります。人にはどんなに仲が良くても触れてはいけない部分、また気持ちの良い距離感というものがあります。ひとりひとり、そこを見極めて付き合うことが大切だと私は思っています。私も私の友達も互いを大切にしたいから相手の気持ちを尊重し、むしろ礼節を持って付き合っているのです。貴女が知りもしない私の交友関係について、そのように意見されるのは非常に心外です」
すると返ってきたのが、この返信。
「私に対する印象の部分を読んでそう思ったので書いてしまいました。
ご気分を害されたら申し訳ありません。
しかし私はサクラ先生から最初にメールをいただいた時、真剣に考えました。
単なる社交辞令のやり取りで済まそうか、
それとも本音で話そうか、と。
そして私はサクラ先生とは本音でお付き合いしようと決めました。
そのようなわけで時には厳しいことも言うことが~~~……」
……。
ちょっと何言ってんだかわかんない。
あの~、借りてもいないノートを口実に(嘘を吐いてまで)事務局に連絡をして、私と連絡取りたがったのは貴女の方ではないですか
その貴女の方が私と連絡が取れた時点で、社交辞令か本音か悩むんですかぁ
それはこっちのセリフだよ
彼女の中でいつの間にか、私に頼まれてお付き合いしてあげている、と記憶が改ざんされているとしか思えない。
がんのやり取りをしているうちにそういう勘違いモードになっちゃったんだろうな。
とことん呆れた。