ブログ・ザ・不易流行

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自分のための言葉を見つける旅

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    物事が最もうまくいく時というのは、どのような場合だろうか。私は、これまで生きてきて、どうやら自分の頭で決めて「主体的」にこれをやろうと思った時ほど、実はかえってうまくいかないことが多いようだと気付いた。反対に、自分で決めたのではないけれど、人からぜひにと頼まれたとか、周りから見てどうしてもやらざるを得ないような状況になった時、おおげさだが、これも天命なのだと悟り、己を無にして従事した時などの方が、どうやら物事はうまくいくことが多いらしいということがわかってきた。
 
    「幸せ」という言葉は、現代人は「幸福」の「幸」と言う字を当てることが多いが、昔は「為合わせ」「仕合わせ」という漢字を当てるのが正しかった。すなわち、いろんな物事が自然な感じで巡ってきて、時と場所を得て合わさって、おのずと物事が成されるという状況、これが最も素晴らしいあり方だということなのだ。
 
    そのようなことをつらつら考えているうちに、以前出会った素晴らしい本をまた引っ張り出して読んでみた。本というよりむしろ冊子といったほうが当たっているのだが、その書物とは、NHKのテレビ講座『荘子』のテキストである。玄侑宗久という、僧侶でかつ芥川賞作家でもある人が書いたもので、表紙には『荘子』の思想の要点として、「何もないことを遊ぶ」「完全なる受け身―それが本当の自由だ」などというフレーズが記されている。
 
    つまり、「受け身こそが100%の主体性」だということである。世間では自己を確立することが大事だとか、周りに流されずに自分の頭で考えて自発的にやることが必要だとか、受け身の学習ではなく「アクティブラーニング」が大切だとか、主体性ということに関して何やら喧しい。しかしながら、ひょっとしたら、主体的な個人なるものが「ある」というのは、近代主義の枠組みで語られた幻想のようなものにすぎないのかもしれないとも思う。「迷いの中の是非は是非ともに非なり」といったような言葉も思い浮かぶ。思うに、一人の人間のちっぽけな頭で考えた、利害得失を計算した上での判断なんて、たかが知れているのである。むしろ、受け身になり、己をできるだけ無にして、より大きな存在、自然な流れに身を任せたほうが、なべての物事はうまくいくようだ。もっと言えば、そのような時に、周囲と調和しながら、自然な形で自分自身が十二分に発揮されていると感じる場合、人々はそれを、「天命に従っている」「ミッションに生きている」とも呼ぶのではなかろうか。そして、こういったかたちで自分自身が最高に発揮されていることが、逆説的ではあるが、自分の特質を最も生かす、すなわち完全な主体性を獲得するということにも繋がるのである。
 
    さらに玄侑氏は、荘子における「最高の行動原理」は、「已むを得ずすること」であるという。世間一般では、「なにかをやらされる」のではなく、「自分で考えて自らの意志で何かをする」ほうが正しいあり方だと思われているようであるが、実はそうではなく、「機運が満ちてきて、やらざるを得ない状態になった時」こそ、もっとも「やるべき時」だということなのだ。「窮すれば通ず」という言葉が『易経』にあるが、窮した時、それ以外に選択肢がなくなった時こそ、最もチャンスなのである。
 
  「後出しジャンケン」は卑怯な手とされており、「先手必勝」などという言葉も存在するが、実は、相手の出方をうかがってから対応する「後出し」こそが最も強い。柔道や合気道などの対戦は、自分の力で勝つのではなく、相手の力を利用して、すなわち「受け身」で勝つのだと聞いたことがある。もちろん、私はこれらの競技には全く疎く、例えば最近のオリンピック競技などでは、まるでレスリングのような、「アメリカ式」の柔道が主流になっているようだ。であるから、これはあくまで私の観念的なイメージで、「柔(やわら)の道」を語るための方便であることを断っておきたい。
 
    こういった考え方は、「柔よく剛を制す」とか、「上善は水の如し」とかの言葉を持ち出すまでもなく、老荘思想をはじめとする東洋思想においては、あたりまえのことであり、「自我をあてにせずに、より大きな存在に身を任せる」というなべての宗教における基本的スタンスを再確認しているだけなのだとも言える。ただ、日々の忙しさに紛れて心に余裕がなくなってくると、忘れがちにもなってくるので、自戒の意味も込めて書き記す次第である。
 
    ちなみに、令和元年が始まったことにこじつけて言うと、「令和」の英訳は、「ビューティフル・ハーモニー」の謂いでもあるそうだ。これからの時代はますます「調和(ハーモニー)」や「しなやかな柔軟性」が重要になってくるように思う。肩に力の入った「自我」の時代ではないのである。
 
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