エリーゼ物語①


第1幕




街から離れた山の上に

歴史の古い立派なお城がありました。


そこにはとても仲の良い兄妹がおりました。


兄の名前はアーサー

妹はエリーゼと言いました。


エリーゼは

色艶の良いブロンドの髪が美しく、とても優しく元気の良いお姫様でした。 




兄のアーサーはこの国の継承者。エリーゼの3つ年上で勤勉で、物知りです。

エリーゼは、アーサーの愛馬オシリスに乗って、森に出かけるのが大好きでした。

「サティ!  お兄様と森へいってくるわ❗️


「エリーゼ様、今日はフランス語の勉強の日でございます!」


「ごめんなさい〜また明日にして、こんな天気の良い日にお城の中にいるなんてもったいないわ❗️」  


侍女のサティは毎日エリーゼに振り回されていましたが、愛らしいエリーゼの笑顔を見てると不思議と心が和むのでした。




エリーゼは、

東屋で本を読んでいる

アーサーを見つけて


「お兄様、森に行きましょうねえいいでしょう?」と甘えます。


空は青く澄んで、春風が優しく頬を撫でます。


東屋は屋根まで伸びた薔薇の香りに包まれていました。



アーサーは、ゆっくりと本

を閉じて

大きく深呼吸をし、

「今日は本当に気持ちの良い日だね。」と立ち上がりました。



馬小屋に行くと

アーサーの愛馬のオシリスが嬉しそうに鼻息を荒くしています。


「オリシス!今日もよろしくね!」とエリーゼ。


アーサーは華麗にオシリスの背中に飛び乗ると、エリーゼを抱きかかえ

「しっかり掴まってて!」と風の様に走り出しました。 


アーサーの胸の中にいるエリーゼの顔に木漏れ日がキラキラと降り注ぎます。



エリーゼは、森の中でも、まるで精霊が降り立つ様なこの場所が大好きでした。


アーサーは、近くの木にオシリスを繋ぎ、先程まで読んでいた本を取り出し読み始めます。


エリーゼは何も言わずにアーサーの隣に腰を降ろし、動物達の姿を探しています。


(今日はどんな動物が現れるかしら、)


木の枝から枝へと飛び移るリスを見つけると

小さな声で

「お兄様、見て、リスよ! あ!2匹いるわ! 

あのリスは親子かしら。それとも、私達とおなじ兄弟かしら。」


「大きさがおなじだから兄弟かもね」


「きっと、私達みたいにとっても仲良しの兄弟なんだわ」と、

なんのかげりもない眩しい笑顔のエリーゼをみて

(君の笑顔はみんなを幸せにする魔法みたいだ)とアーサーは思いながら、再び本に目を落としました。


陽が落ちかけて2人の影が長くなるころ

「さあ、そろそろ帰ろうか。」と立ち上がり、アーサーはオシリスの立髪を優しく撫でます。


「うん!」


お城へ向けて走るオシリスの蹄鉄の音が風に溶けていく。


規則正しいその音を聞いているうちにだんだん意識がまどろんでいくエリーゼ。


「エリーゼ?」

••••••••

(寝てるのか、、)

アーサーはふっと口元を緩め先程よりもゆっくりなペースでお城へ戻っていきました。

自分の胸の中で微笑みながら眠るエリーゼをずっと守って行きたいと思いました。


ある秋の夕暮れ

遠くから急いで走ってくるしてくる蹄の音が聞こえ

オシリスだけがお城にむかってくるのを

馬小屋の使用人シエロが見つけます。


馬屋まで来ると

「ヒヒーン!」と鳴き

シエロの服を引っ張って何か言いたそうなオシリス。


「アーサー様とエリーゼ様に何かあったのか!?」

と言うと

急に体制を変え、元きた道を急いで戻って行くオシリス。


シエロは、オシリスの兄弟馬のホルスの馬留めを急いで外し

オシリスを追いかけます。

「ホルス急いでくれ!」



沈みかけている夕日を背に、シエロの胸騒ぎは耐えられないほどに大きくなって行きます。


エリーゼは

シエロを見つけると

「助けて!お願い!お兄様がぁ!」と叫び


シエロが訳を聞くと


鹿の親子が急に飛び出し

避けようとした瞬間

エリーゼを庇うようにアーサーはオシリスから落ち、強く地面に叩きつけられたのでした。


「お兄様!お兄様!お願い目を開けて‼︎」と気を失ったアーサーを抱きしめ、泣き崩れます。


「急いでお城へ!」

お城では、王様、お妃様、侍女から使用人までが

アーサーのベッドの周りで泣いています。

「おそらく、落馬した時に頭を強く打たれたのでしょう。」と医師は首を左右に振ります。



エリーゼは

「お兄様!お兄様!お兄様!!」と何度も何度も呼び続けます。呼べば戻ってくる気がしたのでしょう。




しかし、エリーゼの声も届かぬまま、青白い月の透き通った光が窓から差し込む部屋でアーサーは息を引き取るのでした。



第1幕おわり