兵糧攻め
ある日の夕方
仕事からあがろうとすると嫁から電話がかかってきた。
ちょうど帰宅準備をしていた私は電話をとった。
嫁「もしもし」
sakura「もしもし、今から帰ろうとしてるとこだけど。なに?」
嫁「あのさ、今日外に食べに行かない?」
一瞬どうしたことかと耳を疑った。あの教祖様が私を食事に誘って下さっているのである。
ええもちろん行かせて頂きますとも。たまには味のコユイ物を食べて、生ビールをグッと頂きたいものです。
私ははやる気持ちを抑えて
sakura「わかった。駅の改札で待ち合わせよう」
と無表情にいうと、ソッコウで会社を飛び出した。
独身時代に外食ばかりしていた化学調味料ジャンキーの私にとって結婚後の健康的な食事は私から野生のパワーを奪い去っていった。
今日こそジャンクパワーを補給して嫁に打ち勝つ力を蓄えなければならない。
今までになく長く感じられる電車の乗車時間に耐え、待ち合わせ場所へと向かう。
そこには、本日のスポンサーである嫁がいた。
嫁と駅前を歩きつつ様様な店を吟味する。
嫁がある一軒のこじゃれた中国家庭料理屋を見つけた。
嫁「ねぇ。ここよさそうじゃない?」
sakura「う~ん。もうちょっと探してみようよ。」
せっかくの外食なのだ。中華料理屋で酢豚定食くらいでおわらせてはならない。
せめて生ビールとうまい焼酎、そしてうまいつまみでゆっくりいきたい。
嫁は私の反抗に若干気分を害したようだったが私は気にしない。
なにせ、今日を逃すと次の外食はいつになるかわからないのだ。
しぶとく探しているとうまいつまみのありそうな感じの居酒屋があった。
嫁に確認してみる。
sakura「なぁ、ここってうまそうじゃないか?」
嫁「なんか、すごい高そうなんだけど大丈夫?」
sakura「大丈夫だよ。高いっていっても二人で一万もしないだろ。」
そういいながらその店に入ってみることにした。
静かな店内、落ち着いた大人の雰囲気というものだろうか。そんな感じのお店だった。
広い店内の真中には備長炭で焼き鳥を焼く職人さんがいる。その周りをぐるっと囲むようにカウンターの席が広めに取ってあった。
嫁の顔が強張った。そしてそれを見た私の顔に緊張が走った(恐らく)
sakura「贅沢なつくりだね~」
嫁「ふーん」
非常にまずいことに嫁の怒りボルテージが上がってきている。
sakura「まぁ、メニューを見ようか」
メニューを見ると嫁の表情が凍りついた。
そして、私の表情は無くなった。
嫁「・・・・」
sakura「なぁ、ビール頼んででようか?近くに赤ちょうちんあったからそこいこうか?」
嫁「なんであの中華料理屋にしなかったのよ。」
嫁がボソリと呟く。
sakura「こんなに高いとは思わなかったんだよ。しょうがないよな?」
嫁「一か月分の食費くらい飛ぶんじゃないの?ココ!!」
こんな状況の中でおいしくジャンクパワーを蓄えられるわけも無く。
生ビールとおつまみ2品で¥8000の出費となった結果
煙草まで制限される結果となってしまった
じわじわと追い詰められてゆくわが身
まるで兵糧攻めにあっているようだ。
覇者の道
とある朝の会話である。
sakura「おはよ~」
嫁「おはよ~」
嫁もなかなかしっかりしたもので、朝はトーストを準備し昼食には弁当を持参させてくれる。
もちろん私は小遣いがないので、これで弁当を持たされなかったら「昼は抜け」ということなのだろうが。
どっちかというと、朝食にはトーストよりも御飯と味噌汁がいいのであるが、
もしそんなことを口走った日には、朝から喧嘩になり終いには
「どうして人が作ったものにけちをつけるようなことが出来るの?。あなたの親はそんなしつけをしていたの?。大体、朝食は米しか食べないっていうあなたの父親の習慣を私たちの家庭にまで引きずるつもり?」
などと私の親へまで怒りの矛先が向いてしまいそうなので、目覚ましテレビを見ながらおいしそうにトーストをかじる。
出勤の準備をしていると財布の中身(主にお金)がないことに気付き嫁に声を掛けた。
sakura「あのさ、今日会社に行くお金がないんだけど。」
嫁の顔つきが変わる。
嫁「いくらかかるの?」
sakura「一日¥2000くらいかかるんだけど。」
嫁「うちにそんなお金はないわよ!」
sakura「でもないっていっても」
嫁「あんたの給料から交通費が出せるとおもってるの!?家賃と食費だけで一杯なのよ。毎日、お酒飲んで煙草吸ってあんたは好きなことばっかして、私は毎日お弁当の残りを食べて家にずっといないといけないのよ!!」
金がないから仕事にいけないのか?仕事に行くから金がかかるのか?
sakura「ちょっとまってくれ。ということは仕事に行かなくてもいいということなのか?仕事に行かくていいんだったら、俺はうれしいんだが。」
嫁「そういうことじゃなくて、少しは家計のことも考えろっていってるの。煙草止めるなり、お酒止めるなりしなさいよ!!」
出社の時間が迫っている。なんという策士であろう。こんなに切迫した時間にこんなにも過酷な選択をさせる気なのか?
私は一ビットの頭をフル回転させある決断を下した。
sakura「わかった。それなら今日からお酒は発泡酒一缶だけにする。これでいいだろ?」
嫁「まずはそこからね」
嫁はいとも簡単に¥2000を差し出した。
嫁が握っている「家計(私の給料)」という武器の強力さを私はこのとき痛感した。
すばらしい武器でも使う人間によってただの鉄くずとなるか、兵器となるか
どうやら私は前者だったようだ。
そして嫁は覇者の道を駆け上ってゆく。
初戦
結婚をして初めての給料日のことである。
毎日の戦いの報酬を自分のためではなく、初めて教祖様(嫁)へと献上する日であった。
給与明細を握り締め、意気揚揚と家路を急いでいた。
給料日こそ一家の大黒柱であることを示す絶好の機会である。
そう考えていたのである。
家についた私はご機嫌だった。
sakura「ただいま~。帰ったよ。」
嫁「おかえり~。早かったね~」
sakura「うん。今日は給料日だったからね。なにかおいしいものでも食べいこうか?」
嫁「そうね~。給料日だからいいよね~」
sakura「そうそう、これが給与明細。大体いつもこれぐらいだから。」
と嫁に給与明細を渡した。
嫁「はい、ありがとう。」
とっても、にこやかな彼女の笑顔。
給料日に一人ではなく二人で喜びを分かち合うことが出来るなんて。
結婚してよかった。
しみじみと思った次の瞬間
嫁「ねぇ・・・」
sakura「なに?」
嫁「家族手当が¥10000なんだけど?」
sakura「ん?」
嫁「私そんなに安いの?私の友達の旦那はもっともらってたわよ!」
sakura「そんなこといわれても・・・」
嫁「諸手当が安いのはいいとして。どうして手当てから税金が引かれてるのよ!!」
sakura「考えたこともなかった・・・というか気にしたことなかった・・・」
嫁「それで!あんなに残業してこれっぽっちの残業代なの?」
sakura「ないよりかはいいだろ?」
嫁「大体、大学卒業してこの基本給はなに!?どうやって生活していくのよ!!」
sakura「・・・・・・」
嫁「外食なんか出来るわけないでしょ!!」
まるで、幕ノ内一歩のデンプシーロールに見事つかまったかのように
怒涛のラッシュをもろにあび、私は敗北した。
そして、結婚一ヶ月にして私は小遣い無しとなった。
戦いの始まり
男は外に出たら100人の敵がいる
家には100人力に匹敵する嫁(敵)がいる
そう思うのは私だけだろうか。
結婚して半年が経とうとしている。
従順でかわいらしかった娘は今や全ての権力を掌握し
恐ろしい嫁として、我が家を支配してしまった。
私の戦うべき場所はいつしか外の世界にではなく家へと変わっていったのである。
いつかこの戦いに終止符が打たれることを願って、ここに戦いの記録を記していこう。
