2022年のインド映画「RRR] の感想です。
「ナートゥはご存じか?」というセリフが話題になっていて気になった作品。
あらすじ
1920年のインド帝国はイギリス領にあり、国民は支配者の横暴に苦しんでいた。総督は狩猟中に森の中で立ち寄った民族の村から、総督婦人が気に入ったからと少女を連れ去ってしまう。トラを捕獲できるほどの技術や力を持つ主人公の一人「ビーム」は、総督府がある町に少女を取り返す機会をうかがうため潜伏する。一方、もう一人の主人公「ラーマ」は、ある使命と決意を抱いて警察官となりデモ活動の制圧で活躍。さらに昇進を目指して総督のもと、少女を取り返そうとする不穏な一派を探すという任務に立候補する。そんな中、列車事故に巻き込まれた少年を見事なコンビネーションで助けた主人公の二人は、お互いの立場を知らぬまま意気投合し親友となる。友情と使命。敵は同じはずだが全く違う立場にある親友だった二人。それぞれの使命のために進む二人はやがて真実を知る運命にある・・・
感想
※感想はネタバレありです。
インド映画は「きっと、うまくいく」しか観たことがなかったので、前情報として知っていた「ナートゥ」というダンスシーンの印象から「RRR」もダンスが中心のにぎやかな内容だと思っていた。
プロローグから不穏な空気で、物語が進むにつれ「イギリス支配下からの解放を目指す戦いの映画」と理解してきたが、最初から最後まで拷問を含む血みどろの暴力シーンが多かったので苦手な人は苦手かもしれない。
血が出ると思ってなくて、私はプロローグからちょっと戸惑った 気持ち切り替えるのに1時間くらいかかったけど徐々に慣れていった。(3時間ほどの映画)
二人いる主人公「ラーマ」と「ビーム」。どちらも普通に死ぬだろレベルの傷を何度も負ったりする。
大ケガしたらとりあえず、その辺から摘んだ薬草貼って包帯巻いとけばOKだ!というか。少し時間を置いたらほぼ全快している様子で。
主人公補正でいつの間にかバリバリ戦ってて「あ、平気なんですね‥」となるので、そのあたりは安心したいところ。
テーマ的には戦争映画のようなシリアスさだけど、あくまでエンタメとして暴力シーンを受け入れられたら、王道的な「友情と使命のはざまで苦悩する二人」からの「友情パワーで完全勝利のハッピーエンド!」を楽しめる作品。
メイン二人について。印象に残ったところ。
ビームは飼いならされていた熊の本能爆発みたいなイメージ。町に潜伏してるときはおとなしく女性に対しては奥手で良い人なんだけど、戦闘モードに入った途端に怒った野生の熊のような強さで敵をなぎ倒す感じ。ギャップが良い。なぜか北斗の拳のフドウの父さんを思い出した。
パーティー会場にアニマルたちと共にサプライズ登場したときは、中央に巨大な熊がいるぜというどっしりとした力強さがあった。
ビームが、イギリス側のお嬢さんに本気で好意を抱いてるのかは謎だった。
任務のために内部に詳しそうな女性に近づく必要はある。でも、そのために割り切ってるという感じでもなかったように思う。彼女に奥手だったのは素なんだろうけども本気で好きで本気で利用するなら、ラーマに対してと同じくらい苦悩しそうだけどそれは無かった。最後にあのお嬢さんもいたので相思相愛っぽく終わっていたけども。
物語にそこまで恋愛的描写が必要無かったからかもしれない。(婚前の恋愛描写は、宗教上の理由もありそう)
少女のときと親友のときだったな、ビームがすごく揺れてたのは。
パーティー会場で親友の正体を知って、困惑したまま攻撃を受け続けていたところから、先へ進む扉の鍵を失って「敵だ!」と意識が切り替わったところが良かった。
あと、拷問シーンでトゲのムチを受けながら歌いだすので「よかった、意外と余裕だ…」と思って、しんどいシーンを乗り越えられた。血が流れると失血量を心配してしまうので、穏やかには見れないですなぁ。
仲間とアニマルの助けがあったとはいえ単身で戦い、ラーマ奪還のときもほぼ単身であの物量に突っ込んでいくあたり、かなり戦闘力高めだと思う。
ラーマは、最初は任務マシーンのようで冷たくとっつきにくい印象を持っていた。任務にあたってるときは心を殺してるんだとあとでわかるんだけども。
危機的な状況の子供をすぐに助けに行く判断と、ダンスシーンで親友の恋愛のためにわざと負けるところに優しさを感じた。過去が明かされるごとにマシーンじゃない側面が見えて好きになっていく形。
毒で話せないまま親友の正体を知り、手を伸ばしていたときに彼は何を伝えたかったのだろうか。もしあの時点で話すことができたら、ビームの妹を救う協力をしただろうか。
ラーマはまだ親友の正体を知ってから壁を叩き壊して感情をぶつける時間的余裕があって良かったなぁ。その後のビームは心の準備もできず戦場で知って、動揺して負った傷が多かったと思う。
ラーマの葛藤のシーンではちょっと泣いた。でもまだそのときは、ラーマの背負ってるものが見えてなかったので、「どこかでビームの味方をしてくれるのでは…?少女が連れ去られてるんだぜ?まだ子供だぜ?」という期待も捨てきれなかった。命を懸けて少年を助けるようなラーマだから、同じく子供のピンチに黙っていられないんじゃないかと。
流れ的にビームのムチ打ちをやらなくてはいけなくなって、チェーンをさりげなく足で引っ張ってなんとか早めに切り上げようとしてるところ。スパイの孤独な戦い。助けたくても助けられない、切り上げたくてもやめられない。容赦なく追加のトゲムチでさらに苦しむことになる。
親友と思っていた人から拷問を受けるビームは肉体的にきついけど、それを行わなくちゃいけないラーマも精神的にはトゲのムチを受けるほどにつらい。
その後に影で動き、少女とビームを逃がす手助けをひっそりとして。親友はそれを知らないってところも悲劇で良い。結果的に許嫁の登場で知るんだけど。そして今度はビームが助けに行くのだけど、その間ラーマを生かしておくなんて優しいな総督!って思ってしまった。めっちゃ目の前で裏切ったのにね。
まさか最後に弓と矢を手に入れたことでジョブチェンジするとは。ラーマの雰囲気、衣装が全然変わっちゃって「なにが起きたの?!」と謎だったけど、いつの間にかこれまでの傷も癒えてるみたいだったから良し。
涙を流しながら自分の父親を撃って、その日弟と母、そして父親と家族を全部失っていて。過去が重いうえに、現在も背負ってるものが重いのよね、ラーマ。
今そこにある親友の命と、少女の命。そして過去の家族の仇、亡き父と故郷・仲間たちから託された使命。天秤にかけるのはつらすぎる。
超人的能力を持つ二人が親友になれたのに、お互いの立場や状況を理解する機会を得られないまま敵対し、戦わざるを得なくなって苦悩するところが王道だけども良かった。
地味に印象に残ったところ。
一番最初に少女が連れ去られたときに殴られたお母さん。生きてるか気になって気になって少女が出てくるたびに心配だった。生きててよかったけども。
少女がビームに「兄さん」と言っていて兄妹かと思ったけども、もし本当に兄妹なら殴られて頭から血を流した母親をもっと気にかけるのでは?と思った。母の命が助かっていたとしても、「妹だけでなく、よくも母を!」という意識がありそうだけども、それが無かったと思う。
本当に親子ならビームが母親のことも言及しそうなので、そのシーンが最後まで無かったことから部族的な意味での「兄妹」なのかな?とも思った。
あと、冷酷な総督婦人が割とあっけない終わりだったなぁと思った。自信満々のまま屋上にいたら階下の爆発に巻き込まれて次のシーンですでに息絶えていて。
あの人、拷問を受けるビームに対して「血だまりが見たいのよ!」って言うわりに、猛獣たちがパーティー会場に乱入したときは震えてなかった?他人が苦しむのは好きけど自分が危険にさらされたら震えてしまうタイプなら、最後にもっとおびえて欲しかったと思うのは性格悪いかな?
そして総督を撃つのはてっきりラーマだと思ってたのだけど、「え?ビームに撃たせるんだ?」と驚いた。ラスボスが総督とは思ってたけども、「ラーマは仲間たちに武器を届けることがあくまで目的であって、総督を仕留めるというのが目的ではなかった」ということに、ビームに銃を構えさせ父親と同じ合図で撃たせたところで気が付いた。
少し気になったのが、提督も提督婦人も額の中央付近に血が縦についていたところ。宗教的になにか意味があるのかもしれないと思った。
あと、ラーマが子供の時に見せた長距離スナイパー力が生かされなかったなぁと思ってて、大人のラーマがもっと性能のいいスナイパーライフルを手に入れたら、敵に気づかれずに総督を撃てるのでは?などと考えたりしていた。あくまで武器を仲間に届けることが目的だから、殺さなかったというか殺せなかったというか。そんなことしても無実の同胞たちが危険になるだけなんだろうけども。
ビームの拷問シーンで、「ラーマがもう一人いたら高みの見物してるあの夫妻を狙撃できるのに!ぐぬぬ!」と、じれったかった。 拷問シーンはつらい。
最終決戦のとき、森のなかでバイク配達兵と馬配達兵から主人公たちがそれぞれの足を受け取ったところで笑った。ゲームでも映画でもときどき、こうして主人公たちにアイテムを届けるだけの役割の敵モブがいたりする・・・。
メイン二人はどちらもかなり戦闘力高めで、銃はラーマのほうが扱い慣れてるけど、ビームは毒蛇の解毒方法を知っていたりとお互いをカバーしていた。
最後に「読み書きがしたい」とビームが言ったことで、「あ、そうか、できなかったのか!!」とハッとした。ラーマにできてビームにはできないことが急にはっきりした。
このあとイギリス本国から強い武器を持った軍隊が送られてしまうんじゃないか?とちょっと不安になったけども。
エンディングがダンスで明るくて、そういった心配はいらないのかなと思った。
インドというと、「きっと、うまくいく」でも描かれていたけど機械工学、エンジニア育成に力を入れているイメージがある。
英雄二人の活躍によって武器を手に入れ、教育に力を入れれば誰にも支配されない強い国になる。
そういった彼らの明るい未来を示す形のエンディングで終わった。
歌う・踊る・暴れるヒゲマッチョが好きな人は好きな作品だと思う。
しばらくはナートゥの歌が頭のなかをぐるぐるしていそう。