2000年公開の「ショコラ」という映画の感想。

恋愛映画というよりはヒューマンドラマ。

 

私としてはとても好きな話でした!

以下、ネタバレありです。

 

あらすじ

 

転々と住む町を変えて生活している主人公の女性と小学生くらいの娘。新しくたどり着いた町は、宗教に熱心で自分を律し他人にも厳しい町長とその方針に縛られている町民たちが住んでいた。

 

夫からDVを受けていて盗癖のある女性、夫との不仲に悩む女性、息子に厳しい過保護な母親と、鳥の死体をデッサンし暗い絵を描く諦めたようなその子供。そしてそんな孫に会わせてもらえない奔放で偏屈なおばあさん。おばあさんは主人公の住む家の大家。そして妻に逃げられてより完璧さを求め「町の平和のため」と言って他人にも厳しい規律を強いる町長と、それに従うしかない若い神父。

 

町民たちはそれぞれに色々な悩みを抱え、町は病んでいた。日曜日にかかさず教会に通って神父の説を聞いても懺悔しても、長期にわたって苦しんでいるようだった。

 

そこにショコラのお店をオープンさせる主人公。教会に行くことを拒んだため町長に「あれは人を堕落に導く悪いものだ」と敵視され苦労しながらも、町の住人たちの心を甘くてとびきりな味のショコラで魅了し、優しく変化を促していく・・・。

 

 

感想(ネタバレあり)

 

すごく良かった。泣いた。

特に泣いたポイントは、教育熱心・過保護で息子をがんじがらめに縛り付けてた母親が変わったところ。

 

この母親は町長のところで働いていて、やはり自分と他人に厳しいタイプで、実の母であるおばあちゃんはそりが合わず二人は今は会っていない。「息抜きさせないと孫がかわいそうだ」と口が悪い偏屈なおばあさんは本当は孫を心配している。

 

主人公の手配で、ショコラ店でおばあちゃんにこっそり会っていた息子を見つけて、怒りながら息子を連れて帰った母親だったが、再びおばあちゃんが孫と楽しそうに踊ってたときは黙って帰って、その後息子のために自転車を用意していた。

 

最初のころにこの息子が、白黒の怖い絵ばかり描いていて鳥の死体をデッサンしてるし、はたから見ると心配な様子だった。そのままずっと母親に支配されていたら、人格が歪んでいたのかもしれない。

 

でも、本当は優しい子でおばあちゃんを家に送り、片づけは僕がやるよと世話もした。家から抜け出してまで母親に反抗したのが、おばあちゃんのためだと思うと本当

は良い子じゃないかと思って最初の印象からすごく変わった。

 

おばあちゃんが死んだときに、神父が町長から言わされた「せめて彼女が、自分の自らの寿命を縮めた行いを悔いていることを祈ります。」という言葉に、描写はなかったけど母親も息子も「おばあちゃんは自分がしたい生き方をして楽しそうに笑って、そして亡くなったんだ」と分かったんだと思う。

 

だから最後、主人公のピンチに厳格だった母親も助けに来ていて。そこで「彼女は何が大切かわかったんだ」と泣いた。母親と息子の変化が良かった。

 

盗癖のある女性もそうだった。やっぱり最初は雰囲気的に何を考えてるかわからない怖さと不気味さがあったのだけど、少しずつ主人公と打ち解けていき背景が見えてきた。夫からの暴言と暴力におびえながら自分だけでは勇気が無く逃げられなくて。

 

自分の現状を主人公に話しながら、思わずスッっと涙が流れた感じが演技と思えないくらいに張り詰めてる心を表していて、見ていてこちらもつらかった。

 

その後に本当に変わって、主人公が去ると言ったとき「私も連れていって」と言い出すのかと思っていたら、「ショコラ仲間」を集めて自分たちでショコラを作り始めていて感動した。彼女が強くなって成長したところも良かった。

 

 

そして主人公の変化。

のほほんと見てたら「町長とそれに従う町民たちが異常」みたいに見えていたんだけど、主人公も実はそれと変わらなかったと気が付いた瞬間が良かった。

 

おばあさんが亡くなったのは自分のせいだと責任を感じ、嫌がる娘を無理やり連れて町を出ようとした主人公。

けれど娘ともみ合って、主人公が大切にしていた母親の遺灰入れが割れて灰が散らばったとき。

 

娘が母親に何度も謝りながら「次はいじめられないようにするから」とか言いながら、床の遺灰を手でかき集めてる姿を見下ろしたときに、主人公と同時に気が付いた。「あんなに愛してる娘にまで、町の住民たちと同じことしてるじゃないか!!」私もほんと疎かった。

 

今まで兆候があったのに、娘は明るく振る舞っているから平気なんだと思ってしまってた。主人公が娘を本気で心配していて娘もお母さんが大好きで、母娘間の愛情は感じられる。

 

だけど愛情があるからといって、娘が母親への愛ゆえに表に出さない大きな苦しみを、主人公も本当は見えているのに無視し続けた。

 

主人公が亡くなった母親への宗教的なほどの強い執着から「母や祖父母と同じ生き方をせねば」と、自分で自分の生き方を狭めていて、それに付き合わせる幼い娘にめちゃめちゃ無理をさせていた。娘は本当はそれで心を壊していた。なんでも話せるミミズやカンガルーを友達にして心のよりどころにしてた。カンガルーは主人公が呪縛から抜けたことで消えていった。

 

綺麗で美味しいショコラによって、町の住人たちに「新しい風」を与えて彼らを良い方向へ変えていった主人公が正しく思えていたけど、主人公も結局は自分のなかに亡くなった母親という宗教を持っていてそれによって自分と娘を苦しめる人生を歩んでいた。

 

昔から繰り返してること、自分が信じてやまないこと、それらを続けることは安心につながる。登場人物はみんな、変化を受け入れることができなかった。それを恐れた。

 

変化を決めて受け入れてしまえば、もっと大きな幸せがあるとわかっていながら、変化への恐れや変化に伴う「執着を手放す痛み」のほうが勝って変えようとしなかった。

 

「自分はこうである、これが正しい」という自分自身への執着。変化は、そういう自分の内面にある歪んだ執着を手放すことだと思う。

 

 

 

そこから解放された。町長も。

町長は、本当は妻に逃げられて自分に自信が無くて、厳格さや正しくあることによって自分を保とうとしてた。でも町民の一人であるDV夫の更生も失敗していて、本当は無力だからこそ他人を強制し縛ることしか選べなかった。

 

そんな町長の大失態を見たとき、さんざん敵視され苦しめられた主人公が「内緒にするわ」と許して、一緒に居た神父は「寛容さ、優しさ」こそが人として大切だと自分の言葉で町民たちに説いた。

 

この流れも良かった。町長は妻に逃げられた自分を許せなかったこそ、自分は完璧だったはずだと後悔すらも拒んだ。「懺悔が一番必要なのは町長じゃないか!」と思いながら見てたけど。ちっとも悔いてないし改めてもいない。というより自分自身に向き合ってない。そうやって張りぼての虚栄心で、自分も他人も苦しめてばかりいた。

 

でも、町長があれほどまでに恐れた変化は、砕けたチョコが口に入ったときにあらがえなくなっていた。町長の大失態、主人公に見られたことによりプライドも粉々になって丸裸になった。受け入れざるをえなくなったが、一度受け入れてしまえば町長自身も救われた様子だった。出ていった妻への執着がようやく外れて、恋心を受け入れて想い人を誘うことができた。ショコラはプライドや意地で武装していた町長も丸裸にした。


そういえば中盤に出てきた、船でやってきた流れ者の一団。そのリーダーがすごくかっこよくて。びっくりした、俳優さん、あれがうわさのジョニーデップだったのかと驚いた。ずっと前にシザーハンズとチャリチョコとパイレーツオブカリビアンしか見てない私は、素顔を知らなかったので全くわからなかった。(俳優名あまり覚えてないので)

 

いやー、あんな人が来たらそれは惚れるだろうねぇと思うくらいに、雰囲気が良かった。主人公も胸元の開いた真っ赤な服がすごくおしゃれで、美男美女で美しかった。

 

主人公の服装が物語の舞台的に古い時代のデザインだけど、今には無くて素敵だったな。ショコラ店の内装も素敵だったけど。ほかの登場人物が暗い色の服ばかりで、派手な衣装だったから、余計に鮮やかで素敵に見えた。船のリーダーに会っていたときの、真っ赤なシャツにブルーの上着、そして大きなベルトとスカート。すごい色の組み合わせで私には絶対浮かばないセンスだけど、すごくおしゃれに見えてすごいなと思った。

 

あと、亡くなってしまったけど偏屈なおばあさんに孫とのやりとりで笑顔が増えていくのはよかった。最初は憎々しい感じで主人公がすすめる甘い飲み物を口にしてたけど、最後のパーティーでの服装はカラフルでおしゃれで、最後まで人生を楽しんでいたと思う。

 

ラストは町の人たちがみんな幸せそうに踊って、甘い物を食べて、色の無かった寂しげな町が色彩と笑顔に溢れる町に変わった。

 

船のリーダーも主人公の店を訪ねてきて。今後も主人公はここで幸せに生きていくだろう終わり方で、観て良かったと思う。ほっこりした。

 

私としては好みの映画だった。また見返したい映画だと思う。