私が桜子のことで悩んでいることは、仕事関係の人たちはおおよそ知っています。
私自身のメンタルが不安定になったことで、
明らかに仕事の効率が悪くなり、それを説明しなければならなかったからです。
私の仕事のひとつに、月1ペースで出している広報誌があります
その広報誌は、市の部長クラスのお偉いさん(同世代)が監修をしているので、
その部長といつも打ち合わせをしつつ、プライベートの話までする、とても仲良しの男性です。
彼は以前からいつも私のことを気にかけてくれます。いや、私に限らず、気遣いの塊です。
私のことを名字ではなく名前で〇〇ちゃん、と呼んでくれる人懐っこさが魅力です。
「表情が明るいね。何かいいことあった」
「今日は疲れてる感じだね。寝不足かい」
男性なのにすごいな、と素直に思います。
ちょっとした変化にすぐに気が付くのです。夫と大違い
だからこそ、能力プラスαの人間力を買われて、この年齢では滅多になれない役職にまで昇進しているのでしょうけど。
この人が結婚相手なら良かったとたまに思います隣の芝はなんとやら
先日、二人で車に乗って取材先を回っていた時のことでした。
桜子が今にも不登校になりそうな状態で、騙し騙し学校に行っていることを打ち明けました。
「学校に行かなくても、別に人生終わらないよ」
「わかっているんだけど、その壁を打ち破れない自分がいて。どうしてうちの娘ってこうなのかなって。いくら考えてもわからない」
素直に弱音を吐きました。すると意外な発言が。
「俺、小学校の高学年、不登校児だったよ」
ええええー--
「理由はなかったんだ。なんとなく学校に行きたくなくなったの。毎日公園や街をフラフラして歩いてたし、家に引きこもってゲームしてたし。多分、母親は相当心配したと思うよ」
彼は、とりあえず桜子が入れればいいなと思っている、地元トップの高校を卒業し、その後、地元の国立大学工学部を卒業して市職員になったエリートです。
しかも、市職員になった若い時から、優秀で超期待の星だったと、他の関係者から聞きました
そんな彼が、まさかまさか
2年間も不登校児だったんなんて。
自分でもどうして学校に行きたくなかったか、今考えてもわからない。
だから、親なんて余計にわからないに決まってる。
〇〇ちゃんが娘さんのことでいくら悩んで共感しようと頑張ってもわかるわけもないよ。
子供なんて自分で自分の気持ちも整理できないんだから。
桜子ちゃんは俺より頭いいのかもしれないけど、やっぱり子供なんだからさ。
だから元気出してよ。
学校に行かなくたって、こうやって無事に大人になった奴だっているんだよ。
別に勉強だって中学からでも遅れないよ。
俺みたいな奴だって無事〇〇大学に受かったんだしさ。←それは地頭のせいだと思う
とても説得力がありました。
とにかく、悩んでいる私を励まそうという気持ちはものすごく伝わりました
部長のことがますます好きになりました
順調に見える人でも、何も抱えていない人なんていない。
困っているのは私だけじゃない。
今、学校に行くのが全てではない。
その後、彼は娘の話を一切聞いてきません。
ただ、定期的にLINEをくれて、くだらないバカ話をしてきます。
私が落ち込んでいないか、気にしてくれているのでしょう。
たかが仕事での付き合いなのに。
フリーランスの私なんて潰れたって、いくらでも広報誌の作り手の代わりはいるのに。
人として素敵だな
私も誰かがつらい時に寄り添ってあげられる人間になりたい。彼のように。
その誰かとは、間違いなく今の桜子のことです。
ーつづくー