池井戸潤さんによる長編小説。

二人の若きバンカー(銀行員)の波乱の半生を

瑞々しく描いた物語です。

 

小さな町工場の息子・山崎瑛(あきら)。

そして大手海運会社・東海郵船の御曹司・階堂彬(あきら)。

同じ音の名前を持つ二人は同年齢。―――

彼らは同じ東京大学を卒業し、

また同じ産業中央銀行に就職した。

入行後の四月に行われた新人研修。―――

ここで二人は周囲を驚かす活躍を見せ、

互いにその才能を認め合う仲となった・・・。

 

そして二人はそれぞれ東京駅を挟んで

本店営業部と八重洲通り支店に配属。―――

銀行員としてのスタートを切る。

ところがやがて彬の実家に異変が起こり、

彼は銀行を退職し東海郵船の社長に就任。―――

抱えている難題を解決し会社を立て直すためには、

産業中央銀行の瑛の力が必要となったのだが・・・。

 

本編で主人公を務める二人の「アキラ」の

生い立ちや境遇はまったく異なります。

山崎瑛の父が経営する工場は、彼が少年のころに倒産。―――

取引銀行に支援を断られたのがその直接の原因でした。

 

瑛はその困難な状況の中から立ち上がり、

産業中央銀行でその有能さを次第に開花させていきます。

一方階堂彬は、父の死去後に一族の間で内紛が生じ、

止む無く銀行を退職。―――

父の跡を継いで経営者に転身します。

 

本編はそんな彼らの半生をスケール豊かに

描いた物語と言えそうです。

 

自らの辛い経験から「人を救いたい」という

強い信念で銀行員となった瑛。

自らの意思で事業後継者の椅子を蹴り、

銀行員となる人生を選択した彬。―――

 

時はバブル前夜からその絶頂期、

そしてその後の破綻を経験する三十年ほどの間・・・。

作者はそんな時期の印象的なエピソードを

一つひとつ積み重ねながら、

二人が成長していく姿を浮き彫りにしていきます。

 

やがて二人の別々の人生は、

本編の土壇場で再び向かい合います。

 

実は彬の会社は彼の叔父たちの企みのもと、

不良債権を抱えて窮地に追いやられていました。

銀行担当者である瑛は彬の会社を救おうと決心。―――

乾坤一擲、ある救済措置を考えつきます。

はたしてその問題解決方法とは

いったいかなるものなのか(?)。

 

さて本編における作者の卓抜した

ストーリーテリングには驚く他ありません。

二人の「アキラ」の歩む道がそれぞれ対等に描かれる一方、

その要所要所で二人の人生がスリリングに交差。―――

 

特に最終章「最終稟議」の場面は

読みごたえ充分です。

自身の運命を切り開こうとする二人の強い信念が、

読者のハートを直撃すること必至(?)。

 

また作中の各所で主人公たちに

思わぬ人物との巡り合いを実現させるなど、

「大河小説(ドラマ)」にも似たしっとりとした

趣きを持たせていることにも注目です。

 

大胆で精緻。

またシャープながらもハートフル。―――

こうした作者の筆使いは、まさに現代に生きる作家の

名人芸とも言えそうな気がしましたが(?)。

 

令和6年9月13日 読了 A  集英社文庫

 

池井戸 潤「アキラとあきら」

(絵のモデルは同名映画で瑛を演じた竹内涼真さんです)

リスクを抱えたうえで彬の会社を救おうとする瑛に対し、上

司の本部長・不動は問う。「なぜそこまでこだわる」と。何

かが瑛の目の奥で動き、心の機微を映したかのように微細に

揺れ動いた。「それこそが、私が銀行にいる理由だからです」

そして瑛はおもむろに続けた。「私の父は、かつて会社を潰

したことがあります」・・・。