アメリカの女流推理作家シャーロット・アームストロング
による短・中編小説集です。
本編に収められているのは短編八編と中編二編。―――
いずれも彼女の全盛期の作品のようで、
甲乙つけがたい作品がそろっています。
そのなかでも自分は「ミス・マーフィ」
という短編に一番惹かれました。
作者は昔からサスペンス・スリラーの
書き手として有名だったお方です。
そうした彼女の資質が全開した作品が
本編ではないか(?)、という気がしましたので
以下にご紹介します。―――
主人公のミス・マーフィは、そろそろハイ・ミスの
年齢に差し掛かったとある高校の事務員。―――
その性格は生真面目でまた心配性なうえ
律義そのものだった。
とは言えそんな彼女の胸のなかで、わくわくする
ような抑えがたい快感を感じるときがある・・・。
それは学内の嫌われ者四人組の生徒が
彼女の前を通って廊下を行進する場面。―――
彼らの高圧的で冷笑的な態度を目の当たりにすると、
彼女は不謹慎にも喝采すら叫びたくなってしまう。
ところがある春の夜のこと。―――
彼女は通りの電話ボックスの中に
閉じ込められるという奇禍に遭遇。
そこに例の四人組が乗った車がちょうど通りかかる。
彼女はガラスを叩き、彼らに助けを求めようとするが・・・。
本編においては物語りの冒頭から
不可解な人間心理が交錯。―――
やがてドラマは不条理で突飛な状況設定の
ど真ん中に突入してしまいます。
なおラストシーンで待ち受けている強烈なドンデン返しは、
残酷極まる「恐怖」を読者に与えること
必至と思われます(?)。
またこの他にも読者の驚きを誘う作品がまだまだあります。
短いページ数ながらもハラハラドキドキ感が
満載の「笑っている場合ではない」。
またアンファン・テリブル(恐るべき子供たち)と
大人たちの対立をサスペンスフルに描いた「敵」。―――
さらに絶妙な発端から予想外の物語が展開する
表題作「あなたならどうしますか?」など、
粒ぞろいの作品が目白押しです。
さてこれらの作品は1950年代に上梓されたもの。―――
とは言えその謎解きとサスペンスを合体させた彼女の
スタイルは、まったく古さを感じさせません。
作者の繰り出すあの手この手が読者の驚きを誘って
止まない珠玉の作品集と言えそうです。
ところで本編にはエラリー・クイーンズ・
ミステリー・マガジン・コンテストに
入賞した作品が多数含まれています。
このコンテストの主催者エラリー・クイーンは
彼女の才能を認め、彼女を「サスペンスの分野での巨匠」と
評したうえで、本編に収録した作品たちを
「人間の境遇に対する彼女の深い同情を――いや、共感を
――示している」と述べていたそうです・・・。
蛇足ではありますが、付け加えさせていただきました。
令和6年8月23日 読了 B (創元推理文庫)
シャーロット・アームストロング「ミス・マーフィ」
~「あなたならどうしますか?」より
電話ボックスのなかに閉じ込められたミス・マーフィは外を見
ると、車が一台滑るようにやってくるのが見えた。それは静か
な夜の通りをスリルを求めて走っているように見えた。彼女は
ガラスを叩き、声を張り上げた。「ねぇ! もし! ちょっと!」
車が通り過ぎたとき、乗っている人間が見えた。それは例の四
人組だった・・・。