イギリスの推理作家ポール・アダム

による長編ミステリー。―――

イタリアのヴァイオリン職人・ジャンニが

連続殺人事件の真相を解き明かしていく物語りです。

 

主人公のジャンニはイタリアのクレモナに住む

ヴァイオリン職人。―――

ある日彼のもとにパガニーニ愛用の名器

「イル・カノーネ(大砲)」が持ち込まれる・・・。

この楽器は本年度のハガニーニ・コンクールの

優勝者であるエフゲニーが

リサイタルで弾く予定のものだった。

 

修理を終えた翌日、リサイタルに来ていた

美術品ディーラーの撲殺死体が発見される。

被害者はホテルの金庫に黄金製の箱を預けており、

その中にはかつてエリーザという女性が

パガニーニに宛てた古い手紙があった。―――

その手紙には彼女が彼に何かを贈ったことが書かれている。

はたしてこの遺品は事件の手掛かりとなるのか(?)。

ジャンニの推理と探索行が始まった・・・。

 

ジャンニはクレモナに楽器工房を持つ

六十歳過ぎのヴァイオリン職人です。

若い頃はヴァイオリン奏者を目指していましたが、

やがて職人として楽器の制作に注力。―――

今ではイタリア有数の楽器職人としてその名を連ねています。

 

そんなジャンニが「しろうと探偵」として

連続殺人事件の謎に挑むのが本編です。

 

実はこの事件の前に、彼は同じ作者による

「ヴァイオリン職人の探求と推理」でデヴューしています。

その凛としたキャラクターに加え、

豊富な知識に裏打ちされた鋭い洞察力に

惹かれた読者も多かったハズです。

 

なお警察側で事件を担当するのは

クレモナ署のグァスタフェステ刑事。―――

彼はジャンニの親友で一緒に

弦楽四重奏曲を演奏する仲です。

 

今回被害者の財布のなかに

パガニーニの楽譜の切れ端があったこと。―――

また黄金の箱の中にパガニーニ宛の古い手紙が

隠されていたことなどから、彼を良く知る

ジャンニに捜査協力を依頼しました。

 

さてジャンニもまたグァスタフェステと同様、殺人事件の

裏にパガニーニの遺品が潜んでいることを看過。―――

二人は事件の謎を追ってイタリア国内はもとより、

ロンドン、パリへ飛びまわります。

 

このあたりのストーリー展開は

サスペンスが横溢し、

プロットのねじれも効果的なことから

本書随一の読みどころとも言えそうです。

 

加えて事件の鍵を握るパガニーニの遺品や楽譜の謎が、

ページを追うごとに一枚一枚はがれていく様は

読みごたえ充分。―――

歴史の謎解き物語りのような雰囲気も漂い、

また音楽ファンにとっても

興味深い一冊であるような気がします。

 

ところで本編ではそのサイドストーリーとして、

若き天才ヴァイオリニスト・エフゲニーの

失踪についての顛末も語られています。―――

はたして彼の失踪は殺人事件と

関係があるのか、どうか(?)。

このあたりは読まれてからのお楽しみです。

 

令和6年7月12日  読了 B  (創元推理文庫)

 

ポール・アダム「ヴァイオリン職人と天才演奏家の秘密」

パガニーニはその生涯で複数のヴァイオリンを所有したが、

いまジャンニの目の前にあるその楽器は、常に彼の一番の

お気に入りだった。「イル・カノーネ(大砲)」―― この

ように命名したのはパガニーニ。その力強い、とどろくよう

な響きから、その楽器は彼の心に特別な場所を占めていた。