米沢穂信さんによるミステリー長編小説。―――

神山高校の折木奉太郎(おれきほうたろう)たち

「古典部」の活躍を描いたシリーズ作です。

 

高校二年に進級した折木奉太郎たちの

「古典部」に、この春、新入生の

大日向(おおひなた)友子が仮入部する。

彼女は部長の千反田(ちたんだ)えるたちとも

すぐに馴染んだように見えたが、

ある日「部長(千反田)は菩薩みたいな人」という

謎の言葉を残して、入部はしないと

同じ古典部員の伊原摩耶花(まやか)に告げる・・・。

 

部室での千反田とのやり取りが

原因のようだが奉太郎は納得できなかった。

この事件が起こったのは毎年恒例の

校内マラソン大会の前日のこと。―――

大日向と向き合う決心をした奉太郎は、

翌日開催されたマラソン大会で二十キロのコースを

走るあいだ、関係者たちに疑問点や事実関係を確認

しつつ、彼女の心変わりの理由を推理するが・・・。

 

奉太郎はまず同じ古典部員の

摩耶花に対して確認を取ります。―――

彼女は大日向が間違いなく謎の言葉を残して去ったと言う。

 

次に彼の親友である福部里志。―――

彼は謎の言葉の意味合いについて、

「外面(げめん)は菩薩の如くなら、

内心は夜叉(やしゃ)」と意味深に答える。

 

さらに当事者の千反田に対して。―――

彼女は昨日部室での大日向とのやり取りについて

ある新しい事実を語る・・・。

 

また奉太郎はそうした確認の合間に、

マラソンコースを走りつつ、これまで大日向が

関わってきたいくつかの「出来事」を振り返ります。

そしてようやく一つの驚くべき推論にたどり着きました。

 

それはマラソンコースのゴール間近、

残り三キロ地点でのこと。

もうすぐ一年生の大日向が走ってくる様子。―――

奉太郎は靴紐を結び直すふりをしながら

彼女を待ち受けますが・・・。

 

さて作者は奉太郎の「回想」と言う形で、

いくつかの「出来事」を本文中に挿入。―――

実はその顛末の一つひとつが、独立した短編ミステリー

としても読める仕掛けになっています。

 

(当然のことながら)作者はそれぞれの短編のなかに、

本編全体の謎を解き明かす手掛かりを

いくつか周到に配置。―――

その結果読者は短編と長編双方の謎解きを

この一冊で楽しめそうです(?)。

 

なお本編一番のサプライズが

その最終章で読者を待ち受けています。

ここで示されるある伏線の回収シーンに触れて、

その驚きがやがて感動に

変わってしまう読者がいるかも知れません(?)。

 

ところで作者はその「あとがき」において、

本書構想のきっかけとなった二冊の

海外ミステリーについて触れています。―――

それはマイクル・Z・リューインの「A型の女」と、

スティーブン・キングの「死のロングウォーク」。

 

自分はこの二冊を読んでいますが、

残念ながらその内容まではよく覚えていません。

とは言え二冊とも相当読み応えのあった本と記憶。―――

なのでもう一度読んでみたいという

気持ちが湧いてきましたが・・・。

 

令和6年6月21日  読了 B  (角川文庫)

 

米沢 穂信「二人の距離の概算」

奉太郎はマラソンコースの道ばたにあるバス停に佇んで千反

田えるが走ってくるのを待っていた。彼女は大日向の退部が

自分のせいだと思い、その責を引き受けるつもりでいる。と

は言え彼女の足をここで止めなくてはならない。奉太郎は一

つの推理を彼女に突きつけようと考えていた・・・。