英・米にまたがって活躍した推理作家

ジョン・ディクスン・カーによる長編小説。

本格推理小説と冒険小説、

双方の醍醐味を味わえるミステリーです。

 

イヴリンとの結婚式を明日に控えたケン・ブレイクは、

突然、もとの職場である英国情報部の上司

ヘンリー・メリヴェール卿(H・M)から電報を受け、

有無を言わせず元ドイツ・スパイの

老人の屋敷へ派遣させられる。―――

どうやらその老人は国際指名手配中の

怪人物Lについて情報を持っているらしい・・・。

ケンは彼の身辺を探るよう命令されたのだ。

 

ところが屋敷で彼が目にしたのはその老人の死体。―――

おまけに彼自身泥棒と間違えられて

当地の警察に捕まってしまう。

ケンは何とか窮地を脱したものの

H・Mから新たな指令が発せられる展開に。―――

一方ケンを心配するイヴリンは

彼に合流しようとするが・・・。

 

ケンとイヴリンはH・Mが探偵役を務めた

作者による前作「一角獣殺人事件」でコンビを組み、

しだいに愛し合うようになりました。

やがて今回の事件発生の翌日に、二人はめでたく

ロンドンで結婚式を挙げることになっていました。

 

ところがH・M卿はそれを知ってか知らずか、

ケンに無茶苦茶な指令を繰り返します。―――

元スパイの屋敷へ潜入する。

さらにそのスパイがドイツの友人に手渡した封書を

手に入れる、と言うような無理難題の押し付け。

 

おまけに家宅侵入や泥棒のまねごと(?)

をしているうちに、

二人は二つのドイツ人死体に遭遇。―――

死者は毒を飲んだらしくその死に方は瓜二つでした。

 

とは言え二人はいったい

何が起こっているのか分かりません。

必死に窮地から脱出しようともがくケンとイヴリン。―――

しかしながら肝心のH・M卿は頼りにならない様子・・・。

 

果たして二人は翌日無事に

結婚式を挙げることができるのか(?)。

 

なので本書の中盤すぎまでの主役は

ケンとイヴリンのお二人。―――

彼らによるハラハラドキドキの冒険譚が

読者を楽しませてくれること請け負いです。

 

もちろん読者はページをめくる手を

休ませることができません。

 

さて本書最終盤において、探偵役のH・M卿により

二つの死体の謎が解明されます。

なお作者はコメディタッチの

ドタバタ物語を隠れみのにして、

ある決定的な事実を上手に隠してしまいました。

 

読者はこの心理的とも言えそうな

トリックの冴えに驚く一方で、

あらためて作者のフェアプレイぶりにも

脱帽してしまうハズです(?)。

 

ところで本書のタイトル「パンチとジュディ」

について一言。―――

これはイギリスではよく知られている

「人形劇」だそうです・・・。

 

夫(パンチ)と女房(ジュディ)が

夫婦喧嘩する愉快な騒ぎを描いているようで、

本書において、謎の死を遂げた二人のドイツ人の

道化た姿を暗示しているとのこと。―――

蛇足ながら付け加えさせていただきます。

 

令和6年6月7日 二度目読了 B (ハヤカワ文庫)

 

ジョン・ディクスン・カー 「パンチとジュディ」

窮地を脱したケンとイヴリンらを前にして、H・M卿はしか

つめらしい顔をして話しだした。「おまえ(ケン)はこの事

件を人形劇のようだといったが、普通とは違ったひらめきで

見れば、いろいろな意味で正しいといえる。これは、何もか

もが間違っているパンチとジュディの芝居なのだ」と・・・。