イギリスのミステリー作家アンソニー・ホロヴィッツ

による長編小説。―――

犯人当てミステリーの醍醐味を

存分に味わうことのできる作品です。

 

実直さが評判の離婚専門弁護士リチャード・プライスが

ワインの瓶で殴打され殺害された。―――

なお現場となった自宅の壁には

ペンキで乱暴に描かれた数字「一八二」が残され、

また事件の直前に被害者は謎の訪問者に向かって

「いったい、どうして?」「もう遅いのに」と

話しかけていたという・・・。

 

さらにこの事件より一週間前のこと。―――

リチャードによって離婚裁判が不調に終わった

女性作家アキラ・アンノは、高級レストランで彼に

グラスのワインをぶちまけたうえ、「ワインのボトルで

ぶん殴ってやる」と脅していた。

謎が謎を呼ぶ展開のなかで、わたし、アンソニー・

ホロヴィッツは「相棒」の探偵ホーソーンに

引きずられて事件の捜査を開始するが・・・。

 

物語はその冒頭で魅力的な謎が提示されてスタートします。

現場に残された謎のメッセージ。

被害者が話した最後の言葉。

そしてアキラが引き起こしたレストランでのワイン騒ぎ。

 

ところがさらに捜査の過程で

驚くべき事実も判明。

実はリチャードが殺害される前日に、ロンドンの地下鉄で

彼の旧友グレゴリーが事故死。―――

 

彼とリチャードは過去において

ある人物の死亡事故に関わっていました・・・。

はたしてこの二つの事件は関連しているのか。

こうして事態は一気に混迷の途に。―――

 

加えて怪しい登場人物たちも次々と登場。

ワイン騒動の当時者アキノのほか、

リチャードの男性パートナーや彼の遺産を相続する者。

事故死したある人物の関係者たち。

 

さらにリチャードともめていた(らしい)

アキラの夫もそのうちの一人。―――

はたして犯人はいったい誰なのか(?)。

 

なお探偵役のホーソーンは腕利きの元刑事。―――

持ち前の鋭い観察力と推理力を駆使し、

謎のピースをつなぎ合わせて

全体像を構築していく様子・・・。

 

その一方で「相棒」のわたしにも

推理作家としての意地がある。

本編でも彼はホーソーンの鼻を明かしてやろうと

独自の推理を展開。―――

真犯人に迫ろうとしますが、はたして・・・。

 

さて本編における伏線の張り方は神業に近いもの(?)。

その縦横無尽ぶりを目の当たりにして、

驚かない読者はいないハズです。

ちなみに巻末解説士(大矢博子氏)は

「無駄な文はなく、すべてが伏線で、目くらまし・・・」

とおっしゃっています。

 

ところで本書においては、作家である

ホロヴィッツ自身が語り手になっています。

もちろん彼はフェアプレイに徹して「事実」を物語る。

ところがその一方であえてその意味付けは行わない。

 

その代わり時には読者をミスリードに

誘うような匂いを漂わせる(?)。

この作法が実は「伏線隠し」に一役買っていたのでは、

と感じる読者もいそうな気がします。

 

とは言え(とにもかくにも)この「必殺の仕掛け」を

初めて取り入れたのはホロヴィッツその人。

おそらくこの作法は今後も

彼の専売特許となりそうです(?)。

 

令和6年4月19日  読了 A  (創元推理文庫)

 

アンソニー・ホロヴィッツ 「その裁きは死」

わたしの視線は、本棚にはさまれた壁に惹きつけられた。先ほ

どホーソーンが話してくれたとおり、三つの数字が緑のペンキ

で乱暴に描かれている ――「 182」と。それぞれの数字から

ペンキがしたたり、まるでホラー映画のポスターのようだ。三

つの数字は不ぞろいでぎくしゃくしていた・・・。