アメリカの推理作家ダシール・ハメットの長編小説。

荒々しい暴力と犯罪の世界を描いた

ハードボイルド小説です。

 

コンチネンタル探偵社サンフランシスコ支局のオプ(調査員)

である「私」は、町の改革を目指す新聞社の社長の依頼で、

西部の鉱山町パースンヴィルに赴く。―――

だが依頼人は「私」が町に到着したその日に

路上で何者かに射殺されてしまった・・・。

 

その犯人捜しの途中で「私」は町の最高実力者である

彼の父親エリヒューから新たな依頼を受ける。

それは町で不法な抗争を繰り広げている

ギャングたちを追い出してくれというもの。―――

「私」はさっそく警察署長のヌーナンや

ギャングの情婦などから得た情報をもとに、

町の実力者たちを対立させて

共倒れとなるよう画策しようとするが・・・。

 

本編の主人公「私」は体重が

九十キロ近い中年の大男。―――

ただしその動きは俊敏で

銃の腕前も人並み以上のタフガイです。

 

またときには自らの手を汚して主導権を握ろうとしたり、

悪知恵(?)を働かせて手を回したりもします。

そんな彼が「仕事人」として読者に強烈な印象を

与えたのが「和平会議」の章です。

 

これは物語りの中盤過ぎに、ヌーナンが彼を頼って

事態を収拾しようとする場面。―――

ここで「私」は集った悪党たちを前にして、

彼らの血にまみれた犯罪を次々と暴露。

 

たちまちのうちにその場を仕切ると同時に、

悪党たちの全面抗争勃発の布石を打ってしまいました。

たしかに彼の「やり方」は好悪が分かれるところ。―――

またその外見や言動を見るかぎり(おそらく)

ヒーローとは言い難いかも知れません。

 

ところが読み進めていくうちに、

やがて読者は「私」の知恵と度胸、

そして何よりもそのずば抜けた行動力に

圧倒されていくハズです。

 

さて本編のプロットは「私」が複数の悪党たちに接触して

扇動やかく乱を行い共倒れに導くというもの。―――

このアイデアは映画の業界にも

多くの影響を与えたようです。

 

黒澤明監督の「用心棒」やマカロニウエスタンの

「荒野の用心棒」がそれに当たります。

有名な映画なのでご覧になった方も多いと思いますが、

登場するのはよそ者の用心棒たち。―――

 

三船敏郎さんとクリント・イーストウッドさんが

それぞれ演じていました。

彼らは映画のなかで町にはびこる悪党たちと対峙。―――

たがいに戦わせてせん滅してしまいます。

 

当然のことながらお二人のキャラクターは

本編の「私」とは異なります。

しかしながら何となく憎めないところは

一緒かも知れません。

 

また映画以外にもこのプロットは世界中の

フィクション小説の世界でも受け継がれている様子。―――

日本のハードボイルド小説のなかにも、

影響を受けた作品がかなりあるとのこと・・・。

 

なお本書は百年近く前に上梓された作品です。

とは言えその影響力の大きさを見ると、

単なる古典的なハードボイルド作品

ではないような気もします(?)・・・。

 

令和6年3月15日  四度目読了 A  (ハヤカワ文庫)

 

ダシール・ハメット 「赤い収穫」

パースンヴィルはきれいな町ではなかった。けばけばしく飾り

立てた建物が昔は流行だったらしい。初めのうちは見栄えもよ

かったのだろう。そのうちに、南側の陰気な山に向かって煉瓦

の煙突の群をずらりと並べた精錬所が、黄色い煙であらゆるも

のを煤(すす)一色に塗りつぶしてしまった・・・。