逢坂剛さんによる長編ミステリー。

謎の人工血液を巡って製薬会社の闇に

巻き込まれていく女性二人の冒険譚です。

 

「人殺しの会社!」。

八甲製薬の秘書・麻矢は役員室へ抗議にきた男から

ある写真を託される。

その写真は白濁した内臓だった。―――

男は彼女に、八甲製薬が製造・販売した人口血液製剤

「フロロゾル」を輸血されたせいで

自分の父親が死んだと言うのだ。

 

麻矢は親友のフリーカメラマンのぶ代にこの話を相談。―――

やがて二人は時を移さず会社の麻矢の友人古森とともに、

この人工血液の謎を解こうと行動を共にする・・・。

ところが麻矢は事件の鍵を握る元看護婦長から

焼津の海岸に呼び出され、その後行方不明に。―――

あとに残されたのぶ代は静岡県警の

岩戸警部補とともにその行方を追うが・・・。

 

本編の主人公は同じ大学に通っていた

麻矢とのぶ代のお二人。

麻矢は大手製薬会社・八甲製薬の秘書室に勤務。―――

彼女は好奇心旺盛かつ正義感も強い女性です。

 

一方ののぶ代は組織に属さず、フリーのカメラマンとして

独り立ちしているキャリアウーマン。―――

その性格は男勝りで行動力も抜群です。

 

そんな二人が怪しげな血液製剤「フロロゾル」の存在を知って、

その謎めいた正体を暴こうとするのがストーリーの本筋です。

この二人による決して物怖じすることのない

スリリングな探索行が本書随一の読みどころ。―――

読者はページをめくる手を休ませることができません。

 

さて本編では「フロロゾル」を巡って、

八甲製薬の幹部たちや

静岡県内の怪しげな病院関係者たち。

医療廃棄物を扱う産廃業者や、

その教義により輸血を拒み続ける宗教団体。―――

 

さらにスペインから逃れてきた日本人ギタリストや

スペイン人のフラメンコの歌い手など、

多士済々(?)な人たちが登場します。

 

これら一見なんの関係もなさそうな人たちが、

実はジグソーパズルのごとく

どこかで関連し合うという不思議。―――

やがてすべての謎が繋がったとき、

読者はまるで奇跡のような「逢坂マジック」を

目の当たりにするハズです。

 

ところで作者は読者に楽しんでもらうことを

第一に考えていらっしゃる作家のお一人。

本編においてもまたしかり。―――

 

プロローグで紹介した戦国時代のおどろおどろしい

「伝説」を、キッチリとエピローグにかぶせる。

また作中のところどころにスペインの

ローカル色豊かな香りを匂わせる。

 

さらに岩戸警部補とのぶ代の交際が始まりそうな予感を

漂わせて、印象深くエンディングを結ぶ・・・。

これらがもたらす深い余韻と後味の良さは、

作者による旺盛なサービス精神のたまものです。

 

なお(蛇足ではありますが)本書のタイトルにも

ある仕掛けが施されているようです。―――

読後、そこに秘められたメッセージに気づいて

思わずニヤリと笑ってしまうのは、

自分だけではないような気がします(?)・・・。

 

令和6年2月23日  読了 A  (角川文庫)

 

逢坂 剛 「熱き血の誇り」

麻矢は人工血液製剤「フロロゾル」の謎を知る元看護婦長を追

って、彼女が住む静岡に赴く。彼女は死んだ男性を看取った静

岡市内の病院に勤めていたのだ。ところが待ち合わせ場所とし

て指定された焼津の大崩海岸には誰もいない。それどころか彼

女は自身の身に危険が迫っているとは考えも及ばなかった。