道尾秀介さんによる中編小説集。
「光の箱」「暗がりの子供」「物語の夕暮れ」という
三つの作品を収めています。
なお作者はそれぞれの作品のなかに、
「作中作」として童話などの物語を挿入。―――
また登場人物の一部が重複していることもあってか、
本作全体を一つの長編小説として読んでもらおうという
意図もありそうです。
「光の箱」の主人公は童話作家の圭介。―――
中学校時代にいじめを受けていた圭介は
弥生というクラスメイトと出会い、やがて同じ高校に
進んだ二人は親密な関係を結ぶようになります。
作中には圭介が作った二つの童話「リンゴの布ぶくろ」と
「光の箱」が挿入されています。
「暗がりの子供」はもうすぐ妹が生まれる
小学生の莉子が主人公。―――
彼女はやがて生まれてくる妹に対して
複雑な気持ちをいだくようになりました。
ここでも圭介が作った別の童話
「空とぶ宝物」が挿入されています。
最後の「物語の夕暮れ」は妻に先立たれた
老境の元教師・与沢が主人公。―――
生きる意味を見失ってしまった彼がとった行動とは・・・。
作中では主人公の幼少時のエピソードが物語られます。
三編ともに巧緻なプロットが印象的。―――
また全編に童話「光の箱」に登場する
サンタクロースのある思いがなぞられているなど、
ストーリーテラーとしての作者の大きな力量を
推し量ることができます。
ところで巻末解説者(谷原章介氏)によると、
本編の作者である道尾さんはミステリー作家を集めたテレビ
番組の中で、谷原氏からの「小説を書くときのルールは?」
という質問に対して、次のように回答したそうです。―――
「何が求められているか、何がウケるか、
何が売れるかっていうのは、すごくわかるんですよ。
でもそれと自分のやりたいことが合わなかったときに、
そっちに合わせないって僕は決めてるんです」と。―――
実は本作中の三編には読者の意表を突く
トリックが仕掛けられています。
鮮やかなどんでん返しも炸裂することから、
こちらをメインにしてストーリーを組み立てることも
可能だったのでは、と思います。
ところが作者の思いは別のところにあったようです。
(これはまったく個人的な感想ではありますが)
読者を驚かせるだけの物語にはしたくない、という作者の
強い気持ちがあったのでは、と言う気がします。
なお本書のタイトル「ノエル」とは、
フランス語で言うところの「クリスマス」。―――
蛇足ではありますが申し添えます。
ちなみに自分は(恥ずかしながら)
この言葉を知りませんでした。
令和6年2月16日 読了 B (新潮文庫)
道尾 秀介 「ノエル」
クリスマス・プレゼントの中身についてサンタさんから質問され
たトナカイは得意げに答えました。「わたしたちが配っているの
は、オモチャでもお菓子でも、お金でもありません・・・人間に
とって本当に大切なものは・・・自分がこの世に一人ぼっちでは
ないということを信じさせてくれる何かなのです・・・」