英国の推理作家D・M・ディヴァインの長編小説。

本格推理小説と法廷推理劇の楽しさを

併せ持ったミステリーの登場です。

 

事務弁護士のジョン・プレスコットは

二件の殺人事件の被告として、いま法廷に立たされている。

最初の事件は六年前に起こった。―――

それは自殺した彼の友人ピーターが

実は彼によって殺されていたというもの・・・。

誰かが警察にその旨通報したのだ。

 

二つ目の事件は数か月前のもので、ジョンの弁護士事務所で

働いている秘書が何者かに刺殺された。

いずれも状況証拠や検察側の証言は彼を犯人と指さしている。

ところがジョンは濡れ衣を着せられたにもかかわらず、

法廷の審理をまるで他人事のように眺めている。

もはや彼は自身の運命をも諦めてしまったのか(?)。―――

そのとき彼の目の前に運命の証人が現れる・・・。

 

本編は主人公のジョンが殺人罪で裁かれるという

ショッキングな場面で始まります。

とは言え誰が殺されたのか

しばらく読者には伏せられたまま。―――

 

やがて六年前の回想が始まって

事件の事実関係が少しづつ明かされます・・・。

 

ピーターとジョンが親友同士であったことや、

ピーターの死ぬ直前にジョンが彼の家を訪れていたこと。

またジョンがピーターのお転婆な妹

ハリエットに慕われていたことや、ジョンが死んだ

ピーターの婚約者とその後結婚したこと。―――

これらがジョンのうつろな目を通して懐かしく、

またやるせなく物語られていきます。

 

さらに回想の合間に続く現在の法廷場面では、

彼と親しかった弁護士たちや彼の妻が次々と証言。―――

その中の何人かは(間違いなく)ジョンを陥れようとして

「嘘」をついているようです。

 

意気消沈しやがて諦めの表情を浮かべ始めたジョン。

ところが四面楚歌に陥ったジョンの目の前に

「運命の証人」が登場。―――

物語りは中盤のクライマックスを迎えます。

 

このあたりのスリリングな展開は

作者の類いまれなストーリーテリングのたまもの。―――

現在と過去を交錯させる語り口が、

読者を手に汗握るワンダーランドに誘ってくれるハズです。

 

はたしてこの裁判の行方はどのような決着を迎えるのか。

また凶悪な殺人を犯した「真犯人」はいったい何者なのか(?)。

読者は最後の一ページまで、

ページをめくる手を休ませることができません。

 

ところでディヴァインは「フーダニット」の

名手としてつとに有名な作家です。

錯綜する人間関係のなかで浮かび上がる怪しい人物たち。―――

彼らは職場の同僚であったり、

隣人や友人、親戚であったりします。

 

また彼らは人に言えない秘密を抱えていたり、

腹にいちもつを持っていたり。―――

ときには平然と嘘をついたり

虚勢を張ってみせたりします・・・。

 

ところがそうした人たちの間をすり抜けて、

アッと驚く「真犯人」が土壇場で登場。―――

読者の心理的盲点をつくサプライズが炸裂します。

それは本書においてもまったく同じ。

 

なので本書もまた、読者の期待に(おおいに)

応えてくれること請け負いの一冊だと思います。

 

令和6年1月26日  読了 A  (創元推理文庫)

 

D・M・ディヴァイン 「運命の証人」

ジョンの親友ピーターの家は古色蒼然として、威風堂々として

いるにもかかわらず、館はまわりの景観によくなじんでいた。

その日、ジョンが呼び鈴を鳴らすとハリエットが家から出てき

た。ピーターの妹である彼女は、十五歳になったばかりの「は

ねっかえり」娘。――― とは言えその物腰は優美だった。