ロシアの作曲家チャイコフスキーは

その生涯に六つの交響曲を作曲しました。

なかでも第六番「悲愴」は彼の全作品のなかで

最も人気のある曲の一つかも知れません。

 

全曲にあふれる流麗・優美

かつドラマティックで繊細なメロディー。

それらを彩る華麗なオーケストレーション。

そして最終楽章に悲痛な緩徐楽章(遅いテンポの楽章)

を置いた独創的な構成など。―――

これらが聴者に多くの共感を呼んでいると思われます。

 

ところでチャイコフスキーは本曲初演の

わずか九日後に亡くなっています。

享年五十三歳。―――

死因はコレラでした。

 

そのあまりにもあっけない(?)亡くなり方から、

死亡当時よりその死因について

いくつかの憶測があったようです。

そのうちの一つがヒ素による自殺を強要されたというもの・・・。

 

この説は四十年ほど前に旧ソ連のある音楽学者が

唱えたもので自分もよく承知しています。

 

チャイコフスキーは男色の嗜好があって

ある貴族の甥とその関係にあった。

当時の皇帝にその旨訴えた者がいて秘密法廷なるものが開廷。

そこで彼の死が決定、死を賜うことになったという説です。

 

ところがその後同じ旧ソ連の学者たちから反対説も出て、

今では従来通りコレラで亡くなったとされているようです。

とは言え彼の死因がどうあれ、もう少し長生きして

もらいたかったと思うのは自分だけではないと思います。

 

さて本曲・交響曲第六番「悲愴」は彼の数ある

管弦楽曲のなかの代表作とも言われている楽曲です。

第一楽章は陰鬱な序奏から始まるソナタ形式の楽章。―――

甘美な第二主題が有名ですが展開部では

ドラマティックな展開を見せます。

 

第二楽章は五拍子の優美なワルツ。

第三楽章は活発な行進曲。

そして最後の第四楽章は悲痛極まりない「葬送」の楽曲。―――

この楽章について作曲者自身が

「人はこれですべてを終える」と述べているとおり、

人生の終焉を感じさせてくれる楽想が続きます。

 

なお中間部で音楽は次第に高潮。―――

情緒的なクライマックスを形作ると

最後は消えゆくように終わります・・・。

終楽章には早めのテンポで活発な楽章を置く作曲家が多かったなか、

当時としては異例の「終わり方」だったようです。

 

自分はこの曲をカラヤン(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団)

や、モントゥー(ボストン交響楽団)、

ヴィト(ポーランド国立放送管弦楽団)、

ムラヴィンスキー(レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団)

の演奏で聴いてきました。

 

重厚で華麗なカラヤン。

力強さにあふれたモントゥー。

覇気にみちているヴィト。

いずれもチャイコフスキーを得意とする指揮者たちで、

作曲者のみごとなオーケストレーションを

堪能することができる演奏だと思います。

 

一方ムラヴィンスキーの録音は、

古くから名演のほまれが高いもの。―――

第一楽章・第二主題の夢見るような甘いメロディーを

これほどストイックに歌った指揮者は珍しいかも知れません。

 

なおここでご紹介しました演奏は、

数ある録音のごくごく一部にすぎません。

名曲だけに名演奏がまだまだ目白押し。―――

皆さんのご参考になれば幸いです。

 

チャイコフスキー作曲 交響曲第六番「悲愴」

(水彩画は静物を描いた習作です)