ドイツの女流作家キルスティン・ギアによる

SFファンタジー長編。―――

十六歳の女子高校生グウェンドリンが

タイムトラベラーとなって大活躍します。

 

ロンドンの高校に通うグウェンドリンはある日学校で

めまいに襲われ、過去に飛んでしまう。

そもそも彼女はタイムトラベラーを輩出する家系の出。―――

ところがトラベラーとして期待されていたのは、

彼女の従妹のシャーロットだった・・・。

実際にその血を受け継いだグウェンドリンは

シャーロットたちの嫉妬の眼をかいくぐり、

相棒となったギデオンとともに過去にさかのぼる。

 

彼女たち二人の任務はタイムトラベルの

「秘密の中の秘密」を開示すること。―――

そのためには過去のタイムトラベラーたちに

接触する必要があった。

なおそのなかには過去に消えてしまった

彼女のもう一人の従妹ルーシーもいた・・・。

 

本書の主人公グウェンドリンは

ごく普通の女子高校生。―――

まさか自分がタイムトラベラーになるとは

思ってもいませんでした・・・。

 

たしかに自分の家系のなかに何人かの

トラベラーがいることは知っていました。

彼女のひいひいおばあさんがそうですし、

従弟のルーシーもそのうちの一人。―――

 

ところが彼女の周囲では同い年の従妹・シャーロットが

その遺伝子を持っていると思っています。

シャーロットは何をやらせても抜群の才女。―――

幼いときからトラベルの準備教育も受けています・・・。

 

その気構えもなにもなかったグウェンドリンは

自分がトラベラーと知ってビックリ仰天。―――

読者も彼女のあたふたする様を見てハラハラドキドキの連続。

こうして読者は知らず知らずのうちに作者の作り上げた

ファンタジーワールドに迷い込んでしまいます。

 

さらに本書ではそうしたSFとしての魅力的な設定に加え、

ロマンティックコメディとしての面白さも際立っています。

何といってもグウェンドリンは十七歳の高校生。―――

大人の恋もしたい年頃です・・・。

 

ちょうど彼女の相棒となったギデオンは

「気絶しそうなほど」素敵な男。―――

ギデオンの言動に一喜一憂するグウェンドリンの姿を

見ていると、大人の読者でさえ

ほほえましく思ってもしまうのです。

 

ところで本書は三部作のうちの第一弾とのこと。―――

二作目以降も次々と過去のタイムトラベラーが登場。

タイムマシン「クロノグラフ」の謎や、

タイムマシンを携えて過去の時空に消えてしまった

従妹ルーシーの謎などが引き続き描かれています。

 

本書をお読みになったかたは、たぶん(自分と同じように)

二作目以降も読まずにいられなくなるハズです(?)。

 

なお最後にひとこと。―――

本書はいわゆるヤングアダルトを対象とした

ジュブナイル小説と言えなくもありません・・・。

とは言えその内容は間違いなく

ミステリ色濃厚なSFファンタジー。―――

「大人」の皆さんにも十分満足していただけますので

どうぞご安心を(!)。

 

令和5年6月2日  読了 B  (創元推理文庫)

 

ケルスティン・ギア 「紅玉は終わりにして始まり」

自身がタイムトラベラーと知ったグウェンドリンは、これも

一族の運命と腹をくくる。ギデオンとともに過去に飛んでタ

イムトラベルの秘中の秘を探る覚悟はできていた。とは言え

一つ気がかりも・・・。それは過去の闇に消えた従妹のルー

シーのこと。いったい彼女はどこにいるのか(?)。