いつも自分の拙いブログに

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ブログをお休みいたします。

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ごめんなさいね。

これからもよろしくお願いいたします。―――

 

~ ここから「長門守の陰謀」(藤沢周平)です ~

 

藤沢周平さんの時代小説短編集です。

収められているのは「夢ぞ見し」「春の雪」「夕べの光」

「遠い少女」と「長門守の陰謀」の五編。―――

 

表題作「長門守の陰謀」以外は下級武士や

市井(しせい)の人々の生きようを描いた時代小説です・・・。

それらの作品で主人公を務めているのはおおむね女性たち。

それぞれの物語りは彼女たち女の視点で綴られています。

 

時として男たちに見せる彼女たちの特別な思いが、

アッと驚くプロットの展開にも直結。―――

あらため女心の複雑さや不可思議さに

目を奪われてしまうのは自分だけではないと思います。

 

「夢ぞ見し」の主人公昌江は御槍組に勤める甚兵衛の妻。

彼女は嫁ぐ前の娘時代にその美貌を

謳われてもいた女性だった。―――

とは言え嫁いだ夫の家禄は二十五俵と薄給で、

そのお勤めもそれほど忙しくない・・・。

 

夫の甚兵衛はその顔といい立ち姿といい、

見栄えがしないうえにもともとが口数も少ない男。―――

おまけに最近は毎日夜遅く帰宅、

子供のいない昌江にはさびしい限り。

最近は「この家に嫁入ったのは間違いだった」と

ため息をこぼしてもいる・・・。

 

そんなある日、江戸から夫の知り合いという

若い武士がやってきた。

啓四郎と名のる男は長身にして白皙(はくせき)の好男子。

口のききかたは多少横柄なところもがあるものの、

目もと涼しげな若者だった・・・。

 

本編では昌江の夫甚兵衛のダメ男(?)な人となりや、

啓四郎と昌江のおかしなやり取りが

読者の笑いを誘うこと必至。―――

作者一流のコミカルなタッチがとても魅力的です。

 

またラストでは啓四郎の意外な素顔が明かされます。

このプロットのひねりもまた作者の名人芸。―――

読者の胸に爽やかな読後感を

残してくれること請け合いです。

 

ところで「長門守の陰謀」は本編中唯一の歴史小説。―――

本作は江戸初期に東北の庄内藩で実際に起こった

史実に基づいて小説化したものです。

 

「蝉しぐれ」や「三井清左衛門残日録」を

お読みになったりその映画・ドラマを

ご覧になった方であれば納得されると思いますが、

武家を描いた作者の作品には必ずと言っていいほど

このような「お家騒動」のお話しが出てきます・・・。

 

本編はこうした作品たちの

原点とも言われている物語り。―――

小説化にあたって作者は入手困難な地元の未公刊資料などを

精読してこの物語りを組み立てたということです・・・。

 

なお本編の最後にはふたりの謎の人物が登場します。

彼ら暗殺者が闇の中で交わしたたった二言の言葉。―――

このやり取りが歴史の真実を照らすというドラマティックな

エンディングで物語りを閉じます・・・。

 

この趣向によって本編は歴史小説という

(いくぶん)狭いジャンルを完全に超えて

より普遍的な文芸作品になった、

というのが自分の素直な感想です。

 

令和5年5月9日 二度目読了 A  (文春文庫)

 

藤沢 周平 「夢ぞ見し」

(「長門守の陰謀」より)

昌江は十八で嫁入り、いまは二十八である。嫁入り前は自分

でも多少その容貌に自信があったし、周囲からも美しいと言

われてもいた。嫁いだ先が二十五石と薄給なことや夫の甚兵

衛のあまり見栄えのしない立ち姿に失望しているわけではな

い。ただいまだに子供ができないことが寂しかった。そんな

ある日、年若の好青年・啓四郎が我が家にやってきた・・・。