英国の本格ミステリー作家、

D・M・ディヴァインの長編ミステリーです。

複雑極まる人間関係のすきをついて、

冷酷にも殺人計画を遂行していく真犯人の狙いとは(?)。

 

歴史学者のモーリス・スレイターは、

幼馴染のジョフリーの邸宅「ガーストン館」に招かれた。

ジョフリーは人気作家で最近ではテレビショーにも出演、

今では国民的な人気を得ている。―――

ところが兄ライオネルが彼の館に来てから

様子がおかしくなっていた。

実は彼は兄から半年にわたり脅迫を受け、

加えて自身の日記の出版計画が家族内に波紋を投げていた。

 

そしてある日兄弟は、「ガーストン館」の

近くに住むライオネルの家から忽然と姿を消した。

その部屋には多量の血が残され、

やがてジョフリーは死体となって発見される。―――

モーリスは彼の妻からの要請に基づき、

彼の自伝の執筆を依頼されたのだが・・・。

 

本編の主人公モーリスは独身の大学教授。―――

一人息子のクリスは離婚した妻ヘレンと一緒に住んでいます。

彼はその少年時代に、ジョフリーと一緒に生活していました。

というのは父が早死にしたジョフリーを、

モーリスの父が引き取ったからです。

 

ジョフリーは年少のころから、

自己中心的で、野心家でもありました。

そんな彼をモーリスは幼いころから嫌っていたのです。

おまけに「ガーストン館」内には不穏な雰囲気が漂っています。

 

ジョフリーと兄ライオネルは犬猿の仲。―――

妻ジュリアは身勝手で、現在ある男と不倫中の身。

二人の娘と母親との仲もしっくりしていません。

加えてフィリップという出自不明の怪しい秘書もいます・・・。

 

なのでモーリスは、

「ガーストン館」に本当は行きたくなかったのです。―――

 

しかしながらモーリスはジョフリーの長女アンが

彼の息子クリスと婚約したこともあり、

結局「ガーストン館」に行かざるを得なくなってしまいます。

こうした複雑な人間関係のなかで事件は起こりました。

 

彫の深い人物造形と全編をおおう陰影のある心理描写。

サスペンスに満ちたストーリー展開に加えて、

謎のベールが一枚一枚はがれて行くプロットの妙味。―――

そうした意味において、本作はミステリーと文芸作品が

融合した作品とも言えそうです。

 

とはいえ作者は名うての「フーダニット」の名手。―――

思わぬ真犯人の登場に

読者は唖然とする他ありません(!)。

 

ところで作者はエンディングにおいて、

ストーリーテラーとしての本領を発揮しています。

最後の数行で、モーリスとクリス、そして元妻ヘレンとの

関係修復への予感を漂わせる作者・・・。

 

彼らのほの明るい未来を暗示させつつ。―――

そしてまた「人間ドラマ」としての深い余韻を残しつつ・・・。

 

令和3年2月13日  2度目読了  A   (創元推理文庫)

 

D・M・ディヴァイン 「ウォリス家の殺人」

ジョフリーの日記には空白の二年間があった。モーリスは彼が

海外で過ごしたこの時期に、死の謎を解く鍵があると踏んだ。

やがてモーリスはオーストリアで、ジョフリーと女性が写って

いる写真を当時の関係者から入手した。いったいこの二年の

間に、ジョフリーの身に何が起こったのか(?)。