大橋達は食堂を後にした。

 犯人に悟られないようにあるコテージに行き、置きっぱなしになっているであろう荷物を調べることになった。

 

 彼は正門事件が起きてから自分のコテージではなく、移動することになったコテージにそのまま向かっただろう。自分のコテージに行って荷物を持っていく暇なんかなかったと考えられる。

 

 それまでに証拠品を処分されていたら意味がないが、家族の目があるコテージだ、そんな時間もなかったはず…



 

 つけられていないか用心しながらあるコテージの前に着いた。

 ノックをすると当然そのコテージの人間が出てきた。



 

「あら、探偵さん??どうしたん??」

「今捜査で色んなコテージ回ってんねん。手荷物検査してもええか??」

「女子のコテージも捜査するん??それは嫌やー」

「大丈夫や、男の荷物だけでええ。まだあるやろ?」


 

 栗橋家のコテージだ。

 相変わらずの真由香のわがままが聞こえたが、今はそれどころではない。


 

 コテージの中に入ると、入って右手側に男物の荷物がまとまっていた。


 

「事件が起きて合宿がどうなるかによるんやけど、真斗まだ荷物取りに来おへんのや。まあコテージに1人で泊まんのも嫌やろうから私らのところに戻って来るんやないか〜、とは思ってんねんけど」

 

 愛華がそう話していた。

 

 いじってもいいと捜索の許可を貰うと真斗の荷物を漁り出した。


 

 空いた使用済みのビニール袋、汚れた靴下、使いかけの睡眠薬と入眠剤。

 

 事件のヒントになりそうな物がある中、前日に着ていた服が見当たらない。

 ちらっと玄関に視線を送るが、そこには愛華と真由香の靴しか見当たらない。



 

 藤原の推理が正しければ、決定的な証拠となれるのは正門の返り血がべったりついている服と靴。それらを隠し持っているはずなのに、ないということは別の場所に隠されてるか既に処分された可能性が高い。



 

「このビニール袋って、きっと今履いとる靴が入ってたんやろな??」

「多分そやな…」

「佐野が見た言うてた犯人は靴下で歩いてた…そういうことか…」

「これは俺らで預かっとくか…」


 

 靴下を入れられている袋ごとポケットに入れると、その場にいた真由香から犯人を捕まえる為なら…と話しかけられた。


 

「福本くん、との関係…なんやけど…」

 

「まあお前ら縁が無さそうに見えて仲良さそうやったもんな。怪しいとは思ってたで。」

 

「やっぱり探偵さんなら気づくもんなん??大橋さんも勘づいていたみたいやし」

 

「なに?真由香、あの殺された子と何か関係あるん!?オカンに隠し事してたん!?なんなん??言うてみ!!」



 

 愛華が真由香の肩を持ち怖い顔を向けていた。

 

 過保護過干渉な親への隠し事だろう。真由香もバレることに対して相当怖がっていたと思う。


 

 真由香は愛華に一言謝り、福本との関係を明かしてきた。

 

 最近付き合いだした新しい彼氏だと…



 

「正門くんの時やって隠してたしな!なんでオカンにそうやって隠すん!?オカンは真由香の為を思っていつも言うてんねんで!!なんでも隠さへんで話して言うてるやん!!」

 

「うちにやって隠し事くらいさせて!!もうオカンに縛られるのうんざりやの!!!よしくんのことバレた時オカンなんて言うてたか覚えてないん!?オカンの認めへん男となんて付き合うたらあかんとか言うてきて怒ってたやん!!

 よしくんな、ほんまはうちら家族と会いたくなかってんで!!オカンとか兄ちゃんが会わせろ言うから連れてったら、どうせろくな男じゃないって、みんなめちゃくちゃ叩いてたのにコロッと態度変えて!!別れよう言われたの家に来てからやで!!絶対おかしいやん、うちはちゃんとよしくんのこと好きやったのに!!オカン達家族のせいで別れたようなもんやん!!

 せやからこうちゃんと付き合うた時は黙っとったの!!また家族が原因で別れたりしたら嫌やから!!」


 

 真由香は今まで溜めてきた鬱憤が爆発したように喋り倒して、大橋に泣きついてきた。

 

 2人が死んだのはきっと自分のせいだ、と話していた。


 

「こうちゃんは家族のこと全部分かってくれた。分かってた上で付き合いたい言うてくれた。まだ付き合いたてやしどうなるか分からへんけど、いざとなれば戦うって、最悪駆け落ちするから、って言うてくれてた…」

 

 2人とも悪くないのになんで…と真由香はずっと泣いていた。


 

 たしかに2人の共通点といえば真由香だ。犯人の動機も真由香絡みの可能性が高いが、何かしっくりこない。

 また他の別な理由があると見て間違いなさそうだ。



 

 その別な理由の可能性として、藤原は睡眠薬を見てある事を考えていた。

 

 家族である2人なら、真斗の夜間徘徊や不眠について何か知っていそうだ。入眠剤と睡眠薬を隠さず持ってきているくらいだ、普段から使っているのかもしれない。


 

「愛華さん達の知ってる範囲でええねんけど、真斗さんってなんで会社辞めたん??辞めた前と後で何か変わったこととかないん??」


 

 2人はさっきまで喧嘩していたのにコロッと態度を変えて真斗について考え出した。

 

 出身大学は大阪の国立大学、就職先も大学を考えたら申し分ないくらいの大手企業だ。

 

 辞めた理由は、本人は人間関係が拗れたと言っていたが…



 

「ほんまことは何も言うてへんな、何か隠しとる。夜中に歩き始めたのは今年入ったくらいやな」

「なんかな、去年の年末くらいからやたらうちに甘えだした気がする。まあ元からうちら兄妹は仲良かってんけど。会社辞めたのが人間関係の悩みやったら、やっぱり会社で何かあったんかなって。」

 

「そうなんか…」


 

 まだ栗橋家と出会って2日目。

 今まで聞いた話と真斗の性格的には、辛いことがあっても人には話さない性分だと大橋達は感じていた。


 

 真斗の荷物にあった汚れた靴下。

 これと正門事件で汚れたであろう服と靴が見つかれば決定的な証拠となる。

 

 今回の荷物捜索で、連続殺人とストーカー魔は真斗だと確証した。福本事件でのアリバイは曖昧であったし、同室であった真斗なら言い訳でなんとでも誤魔化せるだろう。



 

 そうなれば、事件が起きてからまだ一度も入っていない正門と福本のコテージにもヒントがまだ残ってるはず。

 そう考え大橋達は栗橋家のコテージを後にした。



 

 正門と福本のコテージ、部屋に入るとそこにはやや争った形跡があった。


 

 押し入れが開けっ放しだ。

 福本事件で凶器とされたシーツはここから持って行ったと見ていいだろう。案の定、シーツが1枚足りない。布団とシーツの枚数が一致していなかった。


 

 その足元には強い力で押し付けられたであろう、座布団に残ってる頭部の痕、それともう1つ、開いたままの手帳があった。

 

 手帳には【付き合った記念日】【初デート日】等の書き込みがあった。

 

 ゴミ箱には捨てられたプリクラ。

 

 プリクラに写っていた真由香と福本を見て、2人はやっぱりな、と顔を見合わせた。真斗の殺人の動機は真由香だと推理した。


 

 奪おうとでもしたんだろうか、プリクラは少しクシャッとしていた。



 

 真由香の気持ちを考えるといたたまれない。

 福本はここで一度襲われてから現場で本犯行が行われたと思って間違いなさそうだ。扼殺痕はきっとその時に出来た痕だろう…




 

 大橋達が正門福本のコテージを出ると、外には警察がいた。


 

「昨夜使った紙コップの一部から睡眠薬が検出されたで。ちなみに盛られたのは大橋藤原福本と栗橋家の真由香。」


 

 林が腕を組みながら紙コップの鑑定の結果を話してきた。

 

「ようそんな特定までしましたね…」

「ただのついで」


 

 大橋達は結果を聞いてまた、やっぱりな、と顔を見合わせた。

 犯人にとって起きていられたら都合の悪い人物ばかりだからだ。


 

「君達は探偵という立場でありながら睡眠薬を盛られた訳やけど、この結果をどう思うん??」

 

「まあ睡眠薬を盛られていたから大橋は眠ってしまったわけやけど。寝んかった俺を褒めて欲しいわ」

 

「丈くんごめんて〜」



 

 睡眠薬の件は理解した。

 そんなものを仕込んでくるくらいだ、正門事件については計画殺人と見て間違いないだろう。



 

 大橋達も真斗と福本の荷物の捜索結果を警察に話した。

 

 それでもまだ分からないことが数点あるが、佐野がやったという証拠がない分、真斗が犯人と見て間違いないと確信した。



 

「ほな、どうしよか?犯人分かった訳やけど、推理ショーで追い詰めるか、さっさと捕まえて連行するか」

 

 林はその場にいる全員に話を振った。


 

「まあ推理ショーやらんと読者が置いてけぼりやからな、やろうや。」

「そういうすえが1番聞きたいだけやろ」

「ええやん別に(笑)」


 

 珍しくボケとツッコミが逆転した末澤と丈一郎。

 大橋達も推理ショーに賛成派ということで、警察とタッグを組み真斗を追い詰めることにした。



 

「ほんなら俺が幹部の倉町くんに声かけ…

 

 林がそう言いかけた時、誰かのケータイの着信音が聞こえた。

 

「本部におる警部からや、これからって時になんやねん…」


 

 本部から林のケータイへの着信だった。


 

 林はややぶっきらぼうに電話に出たが、しばらくすると電話の内容を聞いて、顔色が変わっていった。


 

 しばらく会話し分かりました、と電話を切る。



 

 電話を切りそんなことない、と自分に言い聞かせていたのを、末澤と丈一郎が心配し出した。

 

 林は重たそうに口を開く。


 

「この近くで高校生くらいの若い男の子…の遺体が発見されたって…」


 

 末澤、大橋達は全員「高校生」というワードに反応した。

 

 まさかそんなことはないと全員が思いたい。


 

 林は今回の事件の詳細を本部に送っていた。

 近くで事件の捜査をしている林達に、遺体の身元の確認をして欲しい、容疑者の1人に高校生がいただろう、まさか彼ではないだろうな、との心配の電話だった。



 

「…まだ確認しいひんと分からへん。すえ、丈、お前らで行ってきてくれへんか。身元の確認をしてくればええ。大丈夫、ここからそんな遠くない」


 

 林が末澤達に発見現場に行ってこい、と指示を出した。

 

 発見現場は、キャンプ場から少し離れた下流の滝の近く、釣りスポットとして地元の人に人気の場所だそうだ。


 

「まとくんは…」

「こいつらとこっちの事件を片付ける。終わったら駆けつけるけど、何かあったら連絡せえ」


 

 丈一郎は末澤に行くぞと合図を送ると、キャンプ場の入口の方へ駆け出した。


 

 その少年が全く知らない赤の他人ならいい話。身元の確認に行って人違いであればいいだけの話だ。



 

 倉町の協力の元、食堂にサークル員が全員集まったが、やはりそこに佐野の姿は見当たらなかった。


 

 佐野が居れば少年の遺体は関係なかった、と思いたかったが、食堂に佐野はいない。

 

 ペアの香織が言うにはトイレに行くと食堂を離れてからまた行方が分からなくなったという。


 

「ちなみにトイレに行ったのいつ頃なん…?」

「大橋さん達が出ていったすぐ後…」

「そっか…」


 

 大橋達は佐野は白だから警察に任せておけば大丈夫、と勝手に判断し推理ショーを始めた。電話で聞いた遺体は別人である、と思い込んでいたいからだ。


 

「まず誰なんや、今回の連続殺人の犯人は…」

 

 倉町が恐る恐る口を開き、サークル員の方を向いた。大橋達はその倉町を安心させるかのように、藤原が犯人の方を向いて話し出した。




 

「まあ…ある程度分かりやすいから隠さんで言うわ、なあ?ストーカー魔の真斗くん??」