バスケ部の合宿。
青春っていいね、羨ましい。


※樹目線です。長いです。




あの対決から3週間ほど経ち、GWがやってきた。


なんでも、バスケ部はGWに合宿があるらしく、その為に遥々軽井沢までやってきた。


橋「軽井沢初めてー!!」
「バスの中からでも分かるくらい景色いいなー!!」


この3週間、なかなか濃かった気がする。


理科準備室で陸上部の2人に事情聴取されて、藤原くんのことは喋った。

手を離せ、と言ったのに、結局あの2人は聞くことだけ聞いて俺を放置して帰っていった。
あの後大橋が来てくれなかったら俺はあそこに放置されたままだ。ただの養生テープじゃなかったから、自力で脱出も出来ず…

そうだ、大橋にちゃんとお礼言ってなかったかも…




ねーちゃんとは、登校時に怒られたこともあり、学校でべったり甘えることはやめた。大橋に同じことをされ、ねーちゃんの気持ちを理解したからだ。

その代わり、家で甘えてた。
勉強を教えて貰ってた。
受験生で忙しいはずなのに構って貰えるのが嬉しくて。教えるのも勉強のうちって言ってたし、嫌がってはなかった。


でも、2人とも風呂上がりにそういうことをしてるもんだから、まあねーちゃんの色っぽいこと。

弟だからまだいいものの、彼氏だったら絶対襲われてるぞ。寝巻きにしろうなじにしろ、色々全開すぎんだよ。俺が思春期の男だってこと忘れんな。

キスくらいしてやろうか、と何度思ったことか。



部活では、あの対決の後に2回ほど、同じ対決をした。

俺が左手だけでドリブル、とか、開始位置を藤原くん寄りにする、とか、色々ハンデをつけたけど、やっぱり俺が勝つ。

藤原くんはそれでも諦めない。

俺だってそう易々とねーちゃんを渡すもんか。





真「じゃあこの3日間のスケジュール説明するから、みんな聞いて〜」


バスの中に真鳥先生の掛け声が響き渡る。


真「とりあえず今日はもう夕方近いから、各々部屋に荷物置いて、夕飯の時間までゆっくりしてていいよ。夕飯の時間とかはしおりに書いてあるから。」

「せんせー、まだそのしおりもらってねえっす!!」

真「あぁ、まだ配ってなかった、ごめん(笑)」


真鳥先生はけっこう天然な人だ。

俺ら1年の生物も教えてるんだけど、生徒と間違えて人体模型に話しかけたり、授業で使うプリント忘れてきて授業の時間は押すし、部活が始まる時間に来た試しはない。

それでも笑顔でいるし、生徒からの信頼も厚い。
愛されキャラってやつなんだろうな。


真「みんなの分回ったかな??
そのしおりに勝手ながらに部屋割り考えて書いてあるから、この3日間はこのメンバーと過ごしてもらいます!学年はごちゃごちゃだから、ここで親睦を深めて欲しくて俺が勝手に作りました!

だから今日はもう遅いので、まず親睦を深めようの日!好きなことしていいけど、暴れすぎて迷惑だけはかけないように。あと、男子達は女子部屋にいかないように!!俺が見張ってるからな!

で、明日は1日かけてみっちり練習!バスケ初心者もいるだろうし、3年生になっても下手な人もいるくらいだし、戦力になってもらうために頑張って貰います!!細かいことは明日説明する。

明後日は午前中もまたみっちり練習。お昼ご飯食べたら終了。バスで東京戻って解散、です!!


質問ある人今のうちにちょーだい!!」



真鳥先生が熱く語った直後、前の席に座ってた藤原くんが手を挙げた。


真「はい丈、質問かな??」

丈「せんせ、自由時間にコート借りてもええ??」

真「いつ使うの?なんなら今のうちに予約入れとくけど」

丈「今日の夜!!ご飯終わってから風呂入るまでの時間!!」

真「分かった、予約入れとくね」

丈「あざます、お願いします!!!」

真「もう着くから降りる準備しといてね〜」



そういって真鳥先生は自分の席に戻った。


藤原くんは後ろを向き俺の方に向いてきて、拳を突きつけてきた。


丈「今日こそ勝つからな!!」

樹「懲りないっすね、あんたも」

丈「いい加減先輩と呼ばんかい!!」

樹「俺が負けたら呼びますよーだ」


隣の大橋が俺らのやりとりを見て微笑んでいた。



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その日の夜、藤原くんとまた対決することになった。実に4度目の挑戦。


さあて、今日はなんのハンデがつくんだ??(笑)


橋「今日は俺がハンデつけるグッズ持ってきた!」


この3週間、無駄に過ごしてたわけじゃない。

大橋以外にもバスケ部の友達が何人か出来ていた。


俺と藤原くんの対決に、大橋が審判、観覧が4人。
また今回も同じ4人が観覧としてコートに集合していた。

なんか話を聞く感じだと、俺以外の6人で今回の対決は計画していた…とのこと。


2年生の北斗くんと今江くん。
1年生の淳弥(じゅんや)と蓮(れん)くん。

ちなみに北斗くんと淳弥は俺と同じ部屋だった。



橋「はい、まず樹の右手を封じるためにこれ持ってきたから(笑)」

大橋がそういって持ってきたのは、陸上部の2人に拘束された時に使っていた黒の養生テープ。


樹「また拘束されるのかよ!!」


右手を使えないように後ろにテープで固定された。


橋「陸上部の部室にあったから借りてきた(笑)無断借用(笑)」
樹「そこまで必死にならんでよろしい」


開始位置をまた藤原くん寄りにされる。


北「あとのハンデは、丈くんは1点でも入れたら勝ちってことね。樹は5点とるまで勝てない。」

樹「なんつーハンデだ」

今「樹が才能ありすぎるからいけない」



なかなか不利なハンデをつけられたけど、どうだか。

目を見る限り藤原くんのやる気は漲っている。



橋「じゃあ始めるよ!!よーい」


ピーッと笛の音が鳴った。


1点でも入れられたら終わりなら、入れさせなければいい。

と言っても俺は5点入れないと勝てない。


守りすぎず攻めすぎず。



樹「よっしゃ!!」


とりあえず俺が1点取る。


こないだの左手だけでドリブルの時は、拘束はされてなかったからシュート決める時は両手を使えたけど、今日は完全に片手だ、かなりやりづらい。



丈「利き手が使えんのにそれだけ動けるのはさすがやなー」

樹「はい喋ってないで、次行きますよ」



1点入れたら仕切り直しの方式だ。

さて、あと何回で終わるかな。



橋「はいもう1回。よーい」


ピーッとまた笛が鳴る。

今回の最初のボールは藤原くんに取られた。


そのまま俺側のゴールに進んで行く。



樹「させるかよ!」

シュートを決められそうになるが、上手く邪魔をした。よかった、ゴールポストにボールが当たっただけだった。


そのままボールを奪うと逆側に全力疾走。


藤原くんも追いついて来て俺の邪魔をしてきた。


そうだ、ツーポイントシュートを狙おう。
それならさっさと対決を終わらせられる。


そう考えてスリーポイントラインの中に入りシュートを狙う。


でも、片手のシュートでツーポイントシュートはさすがにきつい。

ボールを落としかけ、それを拾われ俺側のゴールに向かっていった。



樹「あ、待て!!!」
丈「慌てず確実に1点貰うってな!!!」


下手にツーポイントシュートを狙わない方がよかったかも。

俺側のゴールに向かうも、時すでに遅し。


ゴールネットにボールが通過するのをこの目で見てしまった。



橋「試合終了!!!藤原くんの勝利!!!」 



丈「よっしゃあああああああ!!!!」


観覧のみんなも喜んでいた。


まあこの対決、敵は俺だけ、みんな藤原くんの応援をするに決まってる…


コートに彼らの喜ぶ声が響き渡った。




俺は膝から崩れ落ちその場に座り込んだ。
 




…負けた。

まさか負けるなんて思ってなかった。

ねーちゃんが取られる現実が…見えて…くる…



橋「樹大丈夫??」


大橋が俺を心配して駆け寄ってくれた。


俺は大橋もそっちのけで床にうずくまった。



ツーポイントなんか狙うからだ、欲に走った俺がいけない。

分かってる、分かってるけど、めちゃくちゃ悔しい。


樹「くっそー…」


左手で拳を作り何度も床に叩きつけた。


静かに、誰にも見られないように、下を向いて泣いた。




…ねーちゃんが他の男に取られる。

家での隙だらけなねーちゃんが、他の男に見られる可能性がある。ねーちゃんが他の男とキスとかそれ以上のことをすることになる。

嫌だ、やだ、そんなの誰にも見せたくない、俺だけのねーちゃんでいて欲しい。



丈「…樹」

気づいたら藤原くんが目の前に来て、俺に目線を合わせ座ってきた。


泣き顔のまま顔を上にあげる。



丈「自分なあ、いい加減にせえ。
ねーちゃんにそんなにこだわってどうすんの。自分で分かってへんの??実の姉やぞ??そんな関係になれるわけないやろ。」

樹「だって!俺の初恋なわけで!!あんな隙だらけな人、誰にも渡したくない!!!」

丈「そんなん自分が決めてどうすんねん!!さくらにはさくらの人生があるやろ!!自分がどうこう言う問題ちゃう!!いい加減ねーちゃんのこと諦めろ!!」

樹「どうやって諦めろっていうんだ!!実の姉だ!!狙おうと思えばいつだって狙える!!!」

丈「じゃあなんで狙わない!!」



藤原くんにそう言われてハッと気がついた。

なんで狙わない…なんでいつも隠そうとするんだ…


だってそれは…



丈「さくらに弟である樹がキスとかそれ以上のことをしてみろ。ドン引かれて嫌われるだけやぞ。」


そうだ、そんなこと俺だって分かってる。

嫌われたくない、だから告白すら出来ない。


ずっと、心の奥にこの気持ちをしまってるだけだ。



丈「なにがきっかけかは知らんけど、ねーちゃんに恋してしまったことは仕方ない。でも、諦めんといけない恋やってあるやろ。

実の姉に恋してしまうなんて可哀想やと思う。辛いやろ。せやったら、俺に、その想い託させてくれ。

もうさくらに告白する権利は貰った。
いずれ、タイミングを見て告白する。まだ付き合えるかも分かってへんしな。付き合えたらさくらのこと幸せにしたるから。絶対泣かせたりせーへん。」



俺は泣きながら丈くんの目を見た。

丈くんは自信に満ち溢れた目をしている。


樹「…諦める…しか、ないっすよね…」

丈「さくらが弟と付き合うなんてことしないと思うしな、それはそれで気持ち悪い」

樹「…ねーちゃんのこと、よろしくお願いします。振られないでくださいよ、泣かしたりしたら俺が許さないっすよ。それこそ殴りに行きますよ…」

丈「おう任せろ!!ちゃんと付き合うたるわ!!泣かせるどころか笑わせたる!!!」

樹「よろしくお願い…します……」



丈くんに想いを託して、俺が叶えられないことを叶えてほしい。ねーちゃんと付き合って欲しい。ちゃんと幸せになってほしい。


泣き崩れる俺を丈くんはしっかりと抱きしめてくれた。

なんだろう、この丈くんの匂い、誰かに似てる。安心する。



蓮「2人、兄弟みたい(笑)」
淳「そうだね〜、いいなあ青春してるなあ(笑)」


蓮くんに兄弟みたいと言われて気づいた。

そうか、丈くんのこの匂い、兄ちゃんだ、兄ちゃんの匂いに似てる。


丈くんのこの包容力もどことなく兄ちゃんと似てる。

背は高くないけど、年上でしっかりしてて、芯のある感じ、兄ちゃんにそっくりだ。



丈「俺が泣かせたようなもんやし、泣きたいだけ泣け。青春しとけ」

樹「ありがとうございます…」



泣きたいだけ泣いた。

ねーちゃんへの気持ちも今日限りだ。
もう出てこないように心の奥にしまっておこう。


諦めるけど、忘れたくない初恋。
告白すら出来なかったけど、この4年、充分ねーちゃんを堪能できたと思う。

なんか、あれだな、某忍者アニメみたいな感じだな。身体の中に別の生き物を飼ってるみたいだ。


お願い、もう出てこなくていいから、静かに眠ってて。













橋「ていうか拘束いつ取る??」
丈「間接的なさくらへの束縛ということで、その罰で今日の夜中ずっとそのままな」
樹「な!!嫌だ!!外せ!!!」
北「今度はねーちゃんじゃなくて男を襲ってきても困るしな、今夜はそれで寝てもらおう」
淳「賛成〜、みんな風呂入りに行こうぜー」
樹「なんでそうなる!!俺が好きなのはねーちゃん限定だ!!男に興味はない!!!!」

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次の日、1日みっちり練習することになっていた。

基本、初心者の下級生に対して上級生が教える訳なんだけど、俺とこの人だけは逆だった。



樹「へへへ、昨日の仕返し」
丈「1年に教わるなんて屈辱!!!!」


俺のペアは丈くんでした。



橋「俺もそこがええ!!」
北「ペアが俺で悪かったな」



丈くんがバスケが下手な原因は見てるだけでも充分わかってた。ドリブルに独特な癖がある。

そんなんだからいつもボール取られる訳で。



樹「はい、まずは立った状態でドリブル!ちゃんと出来るまでそこから動かないでくださいよ!!」


癖を無くすためにまずは基本からしっかりと。

人にバスケなんて教えることなかったけど、昔兄ちゃんから教わったことをそのまま返せばいい。


8年のキャリアだ。
おそらく部活内で随一のキャリアだろう。


樹「じゃあ今度は歩きながらのドリブルです、とりあえず利き手で俺の周りを一周してください。2周目は左手も使って両手でドリブル、3周目はまた利き手でドリブル、それを繰り返してみてください。」


3年生に教えてるのなんて俺しかいないし、言い返されるかと思ったけど、意外と丈くんは大人しかった。

俺の言うことをちゃんと聞いてくれてる。



しっかりと基本から教えてるせいか、ドリブルの癖は見るからに減ったように感じる。

なかなか綺麗なドリブルだ。



樹「じゃあ今度はあっちの壁まで走ってドリブル、また俺のところまで戻ってきてくださいよ。ゆっくりで大丈夫です」


丈くんは素直に言うことを聞いていた。


俺のところまで戻ってくると、俺にボールを渡してきた。


丈「どう??癖減ってる??」

樹「だいぶ。普段の部活始まる前にこれ一通りやればだいぶ違うと思いますよ。」

丈「ありがとうな!!3年の今になんでや!と思てたけど、自分教えるん上手いな!!」

樹「そうですかぁ??昔兄ちゃんに教わったことをそのまま丈くんに教えてるだけです(笑)」

丈「えぇ、兄ちゃんおるんや!!」

樹「6つ上の兄貴です、小1の時兄ちゃんが中1でバスケ始めたから、それに混じって俺も一緒にバスケやってて」

丈「なるほど、それで小1からバスケやってたんか!ずば抜けたそのセンスも兄ちゃん譲り??」

樹「いや、たぶんこれはパパ譲り。昔強豪校のレギュラーだったんだそうで!!」

丈「へぇー!もうちょい背高かったら樹もプロ目指せてたかもなー、めっちゃ上手いしな!!」

樹「背のことは言わないでくださいよ!気にしてるんですから(笑)」



大橋や淳弥達が俺らのことを珍しそうに見てた。


そりゃだって昨日まで、ねーちゃんを巡って争ってた2人が、しかも今日なんて後輩である俺が丈くんにバスケを教えてる訳で。

兄弟みたいって思われてるんだろうな。



元はと言えば、ねーちゃんのことを好きになったのだって、兄ちゃんが家を出て寂しさを感じていたのが、変な風に転じて恋に落ちてしまった訳で。

甘える対象が見つかればねーちゃんに執着する必要はない。


兄ちゃんの代わりに丈くんにめちゃくちゃ甘えたい。

大橋ともいい友達になれそうなんだよな。
ちょっと俺への愛がデカすぎるけど、誰かに愛されているのなら甘え返すのが友達ってもんじゃないかな。


とりあえず、いい先輩を見つけたなぁ、ねーちゃんもこの人と幸せになってほしい。










橋 (むす…)
北「お前は樹のこと好きなのか、そっちなのか」
橋「違う!!丈くんの事が羨ましいな、って!」
北「羨ましいってつまりそういうことだろ(笑)」
橋「樹と一緒にいたい〜」
北「嫌われない程度に甘えとけ」
橋「ほっくんと樹が同じ部屋はずるい!!俺も同じ部屋がよかった!!!」
今丈蓮「「「俺らで悪かったな」」」