いちじく
にんじん
さんしょうに
しいたけ
こぼう
むかご
ななくさ
やまいも
こんにゃく
とうふ

音外れな手鞠歌
響くよ響く
楽しげに

いちじく
にんじん




風に紛れてどこからか、懐かしい歌が聞こえてくる。
どこか舌足らずな歌い声。


鼠と金は紅蓮と初めて会った町に来ていた。
紅蓮を探すためだ。
この町で食料を買っていたため、ここに住んでいるのでは…と思っていた鼠だが、町に通い始めて一週間がたつ今ではその考えを頭から消していた。
紅蓮の銀髪は目立つ。
そう大きくない町で一週間も探していて見つからないなら、ここに住んでいるとは考えづらい。
それでも二人が町に通っているのは、紅蓮が買い出しに来るはずだ、と予想しての事だった。

秋も終わり、冬に近づき、気温も日に日に下がってきていた。
鼠は手に息を吹きかける。


「あら?」
金が不意に声を上げる。
紅蓮を見つけたのかと鼠が振り返る。
しかしそうではなかった。
金のもとに一羽の鳥が舞い降りてきたのだ。

「伝達か?」

鼠が鳥を覗き込む。
鳥の足には手紙がくくりつけられていた。
手紙を外し、差出人を確認する。
「兄さんからだ!」
金が喜びの声を上げた。
その声に反応し、鼠も表情を明るくする。
「銀さんからか!」
鼠の声に金は嬉しげに頷いて手紙を広げる。


しかし、鼠の上げた声に反応していたのは金だけではなかった。
二人が立っている場所の、すぐ近くの反物屋。
そこで布を見ていた黒髪の浪人が振り向いて二人を見る。

「……銀……?」


しばらく黙って手紙を読んでいた金は眉間に皺を寄せた。
「……え?」
そんな金の様子に鼠も怪訝そうな表情をする。
「どうかしたか?」
鼠の気遣うような声に金が不安そうな瞳を向ける。
「分かんない……分かんないけど……この手紙……兄さんと父さんからの『危険信号』の暗号が書かれてる……」
「……はあ!?」
鼠の声が辺りに響いた。
しかしそんなことお構い無しに鼠は言葉を紡ぐ。
「危険信号だって!?」
そんな鼠に声量を落とすように金が指示する。
「それ、何に対しての危険信号なんだ?」
声量を落とした鼠が金に尋ねる。
金は暗い表情のまま問いに答えた。
「分からない……。詳しいことは全く書いてないけど……多分二人に何かあったんだわ。」

沈黙が流れる。
突然の事に金の頭はいっぱいいっぱいだった。

そんな二人の前を黒髪の浪人が一人、通り過ぎていく。
鼠と浪人がすれ違うその瞬間、鼠の耳に低い声が響いた。


「……村外れの川の岸辺で待っている……」


鼠はそのよく知る声に浪人の方へ振り向いた。
しかしそこには浪人はおらず、小さな子供達が手鞠片手に走っているだけだった。