ひとつ…ふたつ…

赤い花が狂い咲く

みっつ…よっつ…

命の灯火が吹き消される

いつつ…むっつ…

罪を裁いて

ななつ…やっつ…

咎を背負う

ここのつ…とお…

………




息をする度に感じる血の匂い。
口の中に広がる鉄の味。
目の端にちらつく真っ赤な色。
中途半端に乾いた服のざらりとした感触と、まだ乾かぬ肌のぬめりとした感触。
耳にこびり付いた断末魔の叫び声。
それらを全て日常として受け入れて、紅蓮は帰路につく。
一仕事終えた紅蓮の姿はなんとも異端で、物の怪の類のようにも見える。
何も映していないような漆黒の瞳で視る世界は常に白と赤と黒の彩り。
誰かの世界を壊していく彩り。

今日壊した世界の持ち主は、数日前に出逢った少年と同じ言霊使いだった。
そのせいか、僅かにあの少年に似た瞳を持っていたようにも思えた。
性格はまるで反対の人間だったが。

簡単な仕事だった。

術など使わせる暇を与えず、相手の首を斬る。
それだけで男の命は動きを止めた。

簡単な仕事だった。

男が何をしたのかは知らない。
そもそも自分が標的の罪を知ることは稀だ。
大人数の人目の前での殺害という極端な例外を除けば、知る必要性がない。
そんな事はとるに足らない事だ。
組織が悪と見なした。
それだけで充分殺すに足りる理由となる。
組織の正義はそのまま紅蓮の正義だった。

簡単な、仕事だった。

しかし、妙に拭えない違和感に眉をひそめると、突然チリリと右腕に痛みが走った。

訝しげに左腕を見れば、いつの間にか傷が刻まれていた。
それは交差したり離れたりしていて、文字のようにも見えた。

違和感の正体はこれか。

言霊は使わせなかったつもりだったのだが…と思ったが、痛みは先程の一瞬だけで、触っても振っても何ともないため放っておく事にする。
その内消えるような傷をいくら気にしても仕方ない。
例え消えないにしろ、利き腕でないなら問題はない。
人が殺せるなら、問題はない。

そして侍は帰路につく。