この国には二つの巨大組織が存在した。
一つは国を影から支え秩序を守る、紅蓮を育てた秘密組織。
もう一つは罪人や反乱組織を裁き取り締まり、国を護る警護組織。
方や汚名を被って国を護り、方や名誉を得て国を護る。
その二つの組織は手段も目的も全く変わらないはずであるのに、法を犯す側と守る側で大きく隔たっている。

二つの組織の間に存在する大きな隔たりをものともせずひらひらと行き来する蝶が一匹。

揚羽はとある城の中の部屋の一角にいた。
「おはようさん。今日は一緒の仕事の日やね、『青蘭(セイラン)』」
揚羽は部屋の中央で黙々と食事をする少女に話しかける。
しかし、少女は何も返事をしない。
「なんちゅったっけ?今日の仕事相手。戦を意図的に起こさせた……ああ!『乱時』…やっけ?」
揚羽は何も気にせずに一人で仕事についてぺらぺらと話し続ける。
少女は揚羽などまるで存在しないように、もしくは見えていないように振る舞う。
食事を終えると、長い白金の髪を青色の髪留めで高く結う。
刀を腰に差し、『仕事』の準備が整うと背筋を伸ばして立ち上がった。
揚羽は唇の端を上げる。

「ほな、行きまひょか」

ひらひらと飛ぶ黒い蝶はまるで蝙蝠のよう。
悪にも善にも傾いて、崩れる前にひらひら逃げる。
ただ彼が気付いていないのは、大きく凶暴な獣の前では蝶だろうが蝙蝠だろうが何も変わらないということ。