「高倉健の図書係」を読んで
著者は30年に亘り高倉健の取材で親しくなり、頼まれる如く本を
探して買ったり、読後感を話し合ったりしていたルポライターである。
高倉健と言う人は秘密の多い人であり、世間体を気にするあまり、ずっと
役柄のカッコイイ主人公でプライベートを過ごした人である。同じ役者仲間にも無理しているから気の毒だと同情されていた向き
がある。でも気を許した人には子供のように無邪気に本来はおしゃべりであるから、機関銃の如く語る人でもあった。その本性を
さらけ出していた人が今回本書を出版した谷充代氏であった。
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本書はページ数(新書版)200ページ強の割にギッシリ活字が埋まって書かれてないので、スラスラ読み進められるお年寄り向
きに出版されている。
読書家高倉健が肌身離さず、持っていた本、辛苦に陥った時読んだ本。
30年高倉健との付き合いは伊達ではない。痛烈な内容は芸人は親の死に目に会えない,健さんも最愛の母が亡くなってから一週
間後、骨になった母親とやっと会えた。然し線香をあげているうちに骨が見たくなって骨壺を開け、
挙句の果てに取り出すとボリボリ骨を齧ってしまった。昔映画で亡くした最愛の女の骨を齧るシーンは幾つか見たことがある。渡
哲也の映画でもそういう
尋常ではない場面があった。まさに♪城卓也の世界「骨まで愛して」である。
もう一つ凄いこと書いているなと思ったのは健さんが尊敬する比叡山阿闍梨
酒井雄哉氏の二千日回峰行の話。死に装束を身にまとい、失敗した時の自害用の短剣を腰に差し、首から上は首吊り用のヒモ,三
途の渡し賃六文銭携えての
回峰行。9日間の断食、断水、不眠、不臥、凄まじい行の話。健さんもよく
滝行には行くそうだが、これを石が落ちてくる危険程度だが、坊さんの修業には人間離れにした狂気さえ感じる。よく見ると健さ
んの愛読書はケッコー
仏教修行本が多い。無欲でストイックな世界がお好きなんであろう。職業柄映画監督の本や紀行文やエッセイ・・・新刊は自分で
買うが、絶版物や入手困難な本を見たい時、本書の作者谷氏に連絡が来て、探すことになるそうだ。だから谷氏は
図書係でそんな関係から亡くなる数年前、健さんから1本のカセットテープを
渡された。自分が死んだら皆に聞かせて欲しいと手渡されたものが、健さんが歌っている♪「対馬酒唄」だった。しんみりとした
寂しい歌である。
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画像>この写真は長野県坂城で写された健さんが真剣を握っている姿である。
この写真を見る前に私は30年以上前から御忍びで健さんが坂城で
剣を(日本刀)を作っている話を聞いていた.坂城は刀鍛冶の町で、私の知っているドライバーが高倉健を見たと言う話を聞い
た。本人も自作で小刀を作ったと言って私に見せてくれたことがある。この一枚の写真を見て健さんが日本刀に唯ならむ愛着を持
っていたことが窺われた。本書の副題にはこうある。
「名優を作った12冊」連城三紀彦「蛍草」、山本周五郎「樅ノ木は残った」
檀一雄「火宅の人」、山口瞳「なんじゃもんじゃ」、五木寛之「青春の門
第一部筑豊騙」、森繁久彌「男のリズム」、白洲正子「夕顔」「かくれ里」、
長尾三郎「生き仏になった落ちこぼれ 酒井雄哉大阿闍梨の二千日回峰行」
これらを読んで高倉健を偲ぶもまた良し!数年前だか「徹子の部屋」に
高倉健の養女が出ていた時(実は愛人)、健さんは子供がいなかったのは
残念だったと徹子が言っていた。あれほどのカッコイイ立ち居振る舞いをする
俳優のDNAが見たかったと思うのは徹子ばかりではなさそうである.


