高杉良著:『破天荒』
経済小説家の大家「高杉良氏」も御高齢になり、大分視力が落ちた為、もう執筆は今回が最後と宣言しているようだ。世間一般に
「杉良」と言うと役者杉良太郎だが、偉大な小説家も高杉良~略して杉良(以後はスギリョーと書く)。
本書はスギリョ―ご自身の自伝。以前にも児童養護施設で育った「めぐみ園の夏」を書いているが、ほぼノンフィクションと見なして
いいようだ。スギリョ―は経済界の大御所や政治家等のインタビュー記事や小説の主人公として書く時、録音やメモを取らない記者
として有名だった。頭が良すぎて全部暗記して憶えている。インタビューされた側の方が不安を持ったらしいが、スギリョ―が長年勤
めていた「石油化学新聞」で其の内容を読むとキチンとインタビューで話していたことが掲載されていてびっくらこいたと言う。
スギリョ―の性格はタイトルで示すように破天荒、負けん気強く、言いたいことをズバズバ言うのだが、有言実行だからやがてその性
格と緻密な計算にほだされて、経済人や官僚等が信頼するに値すると判断したようである。普通は自分自身の生い立ちはエッセイ
では書いても私小説を書く人は少ない。作家は自惚れ強くナルシスト多しと言われている。スギリョ―はもし自分が亡くなって他人が
自分のことを書くようになると、憶測で何を書かれるか分からない。
だから自分が目の黒い内に書くんだと編集人に語っているそうだ。
短期間養護施設で育ったこと、高校中退でありながら石油化学新聞に入社したこと。履歴書にはそう書いて就活したが、人事担当
者が試験の論文を読んで、狭き門の中から二人選んだ内の一人であったこと。
選抜した責任は担当者が取るから社長には自分の口から高校中退である事を言わぬこと・・・・。スギリョ―自身は文筆には相当の
自信を持っていて、採用は学歴より実力を認められて入社したと、担当者には至極感謝している。終戦時が子供であった世代はこ
のように能力合って学歴なしという有能な人材が沢山溢れていた。現代は少子化で猫の杓子も肩書だけ求めて何の役に立たない学
問を求めて校門を目指すが無駄の一言に尽きる。破天荒を読むと戦後日本経済の夜明けや金融業者の悪ドサ、そんな魑魅魍魎の
中にも健気にいる優秀な経営者の解析や人物評が描かれていて、しかも会話中心だから読み易い。
40年~50年前の会話がキチンと覚えていて書いているのは、AI先駆けの頭脳の持ち主に思える。
画像スギリョー>
この前読売新聞に(今新聞を購読している人、卓上電話を持っている人が激減している)石原慎太郎作:「あるヤクザの生涯―安藤
昇」
の広告があった。スギリョ―より慎太郎氏の方が年上で、日本バブル期二人に接点はあったかどうか不明だが、慎太郎氏も近年病
と闘い、書いておかなければならない日本男児として前回「田中角栄」を執筆した。そして今度が安藤昇氏。終戦直後渋谷に君臨し
たヤクザの親分である。インテリヤクザと言われ、刃物を振り回す唯のゴロツキとはレベルが違う反社会的組織の頂点にいた人物。
その人を人生末期、書こうとする慎太郎氏の真意とは?スギリョ―はさんざ経済界の胡散臭い人物ばかり描いてきて、一息入れて
自分の輝かしい実績を記録に残そうと2倍の点眼鏡で時間をかけて書いた.これが絶筆かどうかわからない。スギリョーにも安藤組
組長のことを書いてもらいたいねぇ。安藤氏は雲の上に行ってしまってもはやインタビューはできない天上の人になってしまったが、
それを絶筆にできないものか。経済界とも関連のあった裏組織の顔役の伝記はスギリョーでも面白い小説になること必至である。



