『タケシがタクシードライバーでやってキタノ❓』

 

北野武著「浅草迄」(河出書房)を読んでいると、明大工学部の学生で殆ど生田校舎に通学せず、毎日バイトに明け暮れていたビートタケシ

 

の実態が窺われて興味深い。一種の自動車免許しか持っていないタケシが入社したタクシー会社は二種を短期間学ばせて、タクシードライ

 

バーを自社確保しようとする会社だった。2カ月掛かって物覚えの早いタケシは2種免許を取得して、やがて一人で営業運転するようになっ

 

た。所が天性のいい加減野郎、下町が生んだひねくれ魂は腰を落ち着けてドライバー稼業に励めない。2年我慢すれば今までかかった経費

 

は帳消しになるのだが、結局2年持たず、違約金を払うことになり、いい稼ぎのタクシー会社をクビになった。

 

この違約金とやらも滞納したアパ―ト代と共に母親が支払ってくれた。口うるさく、躾に厳しい母親だったが我儘な末っ子のタケシの為に献身

 

的に面倒を見た。本書「浅草迄」はエレベーター係のバイトをしていたと言われるストリップ劇場(フランス座)の小話も入っているかと思われ

 

たが、足立区島根町の子供時代、キーちゃん、ケンボー悪ガキ3人の悪戯やジャズ喫茶に入り浸り、客達の夥しい知識に気遅れして、巻き返

 

しの勉強をしたくて金の為バイトに取り掛かる。若きの日のタケシ下積み時代の話盛り沢山である。

 

 

本書は非常に読み易く、文章は流麗で笑いあり涙あり。

 

取り分け強い絆で結ばれた一家6人貧乏暮らしが泣ける話に出来上がっている。コメディアンのタケシの話だから何処までが真実で作り話か

 

の境界線をあれこれ模索しながら、読むのも一興かもしれない。

 

ペンキ屋親父の間抜けさ、母親の気丈さ、兄姉の弟を思う気遣い・優しさ、色々取り混ぜて60~70年代の東京下町を思い出すのに、感慨深

 

いものがある。あの頃は東京も地方の田舎も同じような時の刻みをしていた。’60年代は上京していなかったが’70年代の学生運動華やかか

 

りし頃は渋谷や中野にいたので、タケシの述懐が自分の経験とダブり、昔を懐かしく偲ぶことが出来た。タケシの溜り場新宿のションベン横

 

丁何て友人と何回か飲みに行ったことがある。作家の小実さん(田中小実昌)をよく見かけたな。タケシにひょっとして会っているのかもしれな

 

い。タケシ本人がモデルのこの私小説は多分これからストリップ劇場にバイトして、漫才ブームで世に出る一歩手前まで、書き続けていくだろ

 

うと予想される。浅草の世紀末的凄さは本書でも書き記されているが、元々下町っ子で掃き溜めのような汚さ、痛快さを知り尽くしているタケ

 

シのことだから、虚実織り交ぜて以後も摩訶不思議な浅草を綴ってくれるだろう。最近高齢者がポックリ亡くなるケースも多々ある。発表すべ

 

き面白い話は出し惜しみせず、早めに公開して欲しい。ホント本書は懐かしく、タケシとはやや同世代なので魔境を楽しく読ませて頂いた。

 

<《ツービート時代のタケシ》

 

話は又、タケシの受験話のように滞ったり、巻き戻ったり前後して再びタクシー稼業話に戻るが、タイトルを「タクシ タケシ―ドライバーなって

 

キタノ」にしようとしたが、余りこねくり回すのも不味かろうと上記タイトルにした。現代はタクシードライバーも少なくなり、ドライバーの高齢化が

 

社会問題になっているが、70年代は庶民の金回りもよくなりつつあり、景気上昇時代に入ってタクシー利用者は激増した。職業柄タクシー乗

 

務員は自由な風潮があり、自由人のタケシには好相性の職業に思われたが、根っからのハチャメチャ魂は矢張り規格外だった。雇う側に相

 

当の度量、がないとタケシは理解不能かもしれない。タケシはタクシー稼業に慣れてくると、よく遊びに行った新宿ジャズ喫茶に寄っては油を

 

売っていたようだ。

 

そこでドライバーなのに酒を飲み(その頃道交法は今ほど厳しくなかった)旧友と語り、思いつきで皆で海を見に行こうと進言した。

 

真夜中タクシーで4人厨子海岸に向かった。池袋営業所に戻る時間も過ぎて、稼ぎの3000円とタコメーターを班長に渡すと,「オイ、一晩中走

 

ってこれか?皆20000円は売り上げてるぞ!」サボっていたんだろうと追求された。これが原因となって後日クビになった。

 

あ~いう~真っすぐで媚びない性格だから謝罪して改心するとは言えなかったのだろうね。それは母親との確執にも表れていて、母親はタケシ

 

の性格を熟知していて大らかに接しているけれども、他人はタケシを理解するのに時間がかかる訳だ。タケシの関西版と思われる人物が「横

 

山やすし」だった。やっさんも気が小さい癖に威勢だけは人一倍で、タクシードライバーを雲助呼ばわりして事件を何回も起こしたっけビートタ

 

ケッシ。二人は共通する部分が沢山あった天才コメディアンだったね。本書はまだ書きたいことは山ほどある奇想天外・荒唐無稽な書物なの

 

だが、ネタバレを無視して綴った積り、深く内容を知りたい方は北野武著を買うか借りるかしてお読みなされ!!

 

《横山やすしは正真正銘の喜劇人だった。舞台に出て来るだけで笑いが起きた》