9月17日(火)~23日(月)まで1週間、アメリカのワシントンD.C.で様々な方々を訪問して意見交換してきました。それぞれのお立場もあるので、誰が何を言っていたかなどは報告できません。ですので、意見交換を踏まえて、私がどのように考えたかをご報告します。

 

 今回の訪米は、(財)国際交流センターからご指名をいただき参加したものですが、メインの目的は「the democracy for the future(未来の民主主義)」についてでした。まず第一に、中国の影響力の拡大などで権威主義的な体制が広がりを見せるなど、日米の民主主義は外からの脅威にさらされていることについて報告します。一方で、第二に日米の内側でも民主主義が脆弱化している点についても報告します。第三に、民主主義と選挙とは密接に関係しているので、どうしても来年のアメリカの大統領選挙についても話題になりましたので、報告します。

 

(その1)民主主義に対する外からの脅威

 民主主義とはいえない大国が、世界へ影響力を拡大しつつあります。具体的には、中国やロシアです。特に、中国は、1国2制度という約束だった香港について民主主義を踏みにじろうとしています。香港の民主主義は崖っぷちです。

 また、カンボジアは、日本などの支援で内戦からの復興と民主主義の確立を進めてきましたが、ここにきて最大野党を解党させるなど民主主義とはいえない状況にまで後退しているのは、背後に中国の影響があるといわれています。

 他方で、スリランカの港湾など「債務の罠」のリスクも指摘されています。つまり、開発支援として多額の資金を貸し付けておいて、返済が滞ると担保として開発事業を中国の所有とする、というものです。

 そこで中国自身の民主主義はどうか、ということです。従来の議論では、一人あたりGDPが7,000ドルから10,000ドルぐらいに豊かになると、人々は民主主義を求めるようになる、といわれてきました。実際、韓国や台湾などでは、権威主義的開発独裁から民主化が進みました。しかし、中国では共産党支配が確立しており、そのような兆候がみられません。逆に2016年夏には人権派弁護士が相次いで失踪した裏には中国政府の関与が疑われています。

 アメリカの有識者は、「人々は個人としてのfreedomとdignityを必ず欲する」と力強く語っていました。しかし、インターネットなどの通信は全て傍受・検閲されていると言われている中、さらに街頭でも監視カメラの顔認証システムなどが進む中で、豊かになって失うものができたときに民主化のために立ち上がるのか、という疑問があります。

 しかし、一方で香港の若者たちが立ち上がっています。また、中国は高度経済成長期にあるので、国内の不満をガス抜きできているものの、ここにきて高度経済成長が終焉を迎える中で、これから民主化の動きが出てくるのではないか、という楽観論もあります。

 

 開発途上国にとって、中国の国家資本主義・権威主義と、日米欧などの自由民主主義とどちらが魅力的かという問題でもあります。まさに体制選択の岐路にたっています。権威主義的な国家運営を行ってきた当局者からみれば、自由民主主義でなくても経済発展できるのであれば、わざわざ民主化など面倒なことはやりたくないと考えるかもしれません。そこで、人々に対して、自由民主主義は魅力的だ、そのような社会にしたいと思わせる魅力が我々の側に必要です。

 民主化支援として、公正な選挙運営の支援など個別具体的にやることはやるとして、そもそもの大きな課題は、自由民主主義の魅力を世界に発信することです。ところが、今、まさに日米欧ともに民主主義が混迷しています。内なる脅威に対する取組みが必要です。

 

(その2:民主主義に対する内なる脅威)へ続く