部屋のすぐ外でメジロが鳴いた。
語り掛けるように鳴いた。
耳を疑った。
日の出までにはまだまだ時間があるはずだ。
僕はそっと触針腕時計の針を触った。
音声時計はわざと控えた。
やっぱり朝までにはまだまだ遠い時間だった。
思いを巡らせてすぐにお彼岸であることに気づいた。
瞬間的に理解した。
「父ちゃんが会いにきてくれたんだ。」
子供の頃に父ちゃんと一緒に育てたメジロの姿が蘇った。
いや、父ちゃんが育てていたメジロの世話を僕も手伝ったりしたのだ。
野草を摘んですり鉢でくだいてからきな粉と水を加えた。
トロッとした感じになったのを陶器のエサ入れに入れた。
それを鳥かごに置いた。
メジロはおいしそうにえさをつついた。
そのエサがメジロの鳴き声を美しくするのだと父ちゃんは教えてくれた。
僕は飽きることなくメジロの歌声を聞き入った。
その姿にも見とれた。
だから今でも鳴き声はすぐに分かるし、その姿をはっきりと思い出すことができるの
だと思う。
メジロの身体の色合い、緑の野草、きな粉の黄色、エサの黄土色、エサ入れの陶器の
白、鳥かごの薄茶色、そのままに蘇った。
父ちゃんが蘇らせてくれたのだ。
メジロの鳴き声の後からは父ちゃんの声も笑顔も蘇った。
科学では説明しきれない出来事を自然に受け止められる年齢になってきたのだろう。
僕は布団の中で喜びをかみしめた。
「父ちゃん、ありがとう。」
僕は心の中でつぶやいた。
(2024年3月22日)