桜井さん、皆さん、ご無沙汰してます。

 真心、ニューアルバムいよいよですね!

 我々も、始動です。我々? 我々ってなんだ?




 盟友にして作家・中村航さんの傑作小説「ぐるぐるまわるすべり台」の、文庫解説を男・桜井秀俊が書いていることは、皆さんご存知の通りでしょうが、その中村航のバンド「狛犬」が、ついに公の場でオリジナル曲を発表したのだ!




 皆さん、書店の、地味な文芸誌コーナーまでいって、「野生時代」12月号を手にとってください。ぜんぜん、野生味のないロゴの「野生時代」の文字の下、表紙を飾るのはもちろん我らが中村航! ……ではなかった。俳優さん(塚本高史)だった。

 表紙こそ俳優さんだが、特集は「中村航」!




 我々(狛犬)は、この特集にあわせてなんと「曲作り」をしたのだった。

 作詞・オレ(長嶋)、作曲・航、編曲を手伝ってくれるのはGOING UNDER GROUNDの河野丈洋!

 企画が始まったとき、一人ひそかに思ってました。




 始まったな、と。




 ついにオレの、栄光の作詞人生が始まったな! と。長嶋のユウは阿久悠のユウ!

 ミリオンセラー連発、

 ウハウハの印税生活、

 俺のドリームラッシュが(きらめくレールを照らして)やってきましたヨ、と。




 なんか、かなりいろいろ間違ってますが(オレが)、以前から作詞に興味を持っていたことはたしか。実は少し前に、別の場所で一つ、作っていたのです。

 それは、こんな歌です。




カマドウマの歌

 午前二時にやってくる おまえ

 こっちの方に飛んでくる おまえ




 俺にかまうなカマドウマ

 俺にかまうなカマドウマ




 あぁ 君も僕も一人だったね




 部屋を斜めにやってくる おまえ

 足が片方とれてるよ おまえ




 心はマダラカマドウマ

 心はマダラカマドウマ




 あぁ 去年の夏も一人だったね




 ……自分でいうのもなんだが、名曲。「おまえと俺」という、エレカシ的な男気あふれる呼びかけが、サビで急に「君と僕」のj-pop人称に変わるいい加減さ、それこそがこの歌詞の醍醐味です(作ったとき、自分でも人称の変化に気付いてなかった)。




 しかし航さんとのコンビで、心はマダラカマドウマ~、はないだろう、ということで、今回はガールズポップ風のものを作成しました。

 半分ほど歌詞ができた状態で航さんが作曲。サビは仮の歌詞だったので、今度はそのメロディに僕が歌詞を付け足すことになった。




 のだが! これが出来ない!

 よくロック雑誌などのインタビューでこういうやりとりありますよね。

「なにしろ歌詞が最後まで書けなくて」

「おまえ、スタジオでもギリギリまで書いてたよな(笑)」とかって。

 ピエール瀧さんが、(シャングリラの歌詞に煮詰まり)朝方公園のブランコで「やべえ、トロフィって言葉しか浮かばねえ」と呟いたというエピソードは忘れられません。

 真心の「サマーヌード」も、あの必殺の「ウソだろ誰か思い出すなんてさ」の一節が出るのに悩みぬいた、と聞いたことがあります。




 今回の作詞で、その気持ちがものすごーく、分かりました! サビと、サビでないところとでは、言葉が同じではいけない。ミニマムなことをいっていたとしたら、景色を大きくしたり、具体的な名詞を不意に出したり、感情をストレートに告げたり、しなければいけない。

 もちろん、これまでも、短歌と俳句は違うように、小説と作詞は違うってことは分かっていたのだが、「どこがどう違うか」身を持って知ったわけです(いつも心配かけてばかり、いけない作詞の僕でした)。

 違うだけでなく「作詞、それは(浮かばないと)苦しい!」ということも、分かりました。

 だから、いきなり超尊敬。この世の作詞をするすべての人に。分かり始めたマイレボリューション。桜井さんもYO-KINGさんも、すごい。




 ……七転八倒して書き上げられた狛犬の曲は、無事に野生時代に掲載されました。でも「暫定版」とさせてもらったのは、まだサビにうまく詞がのってないから。助詞の「を」をどうしても取りたくない。これは作曲者と相談してみたいと思ってます。

 詞はともかく、航さんの作った曲はかわいいです。楽譜ものっているので、皆さん「野生時代」めくってみてください。苦労の足跡をみてください。




 そうそう、航さんの小説の新作「僕の好きな人が、よく眠れますように」(角川書店刊)も、照れずに愛を歌い上げた、でも決して笑いを忘れていない、つまり真にポップなラブソング(のような小説)です。

 真心のニューアルバムと一緒にどうぞ!