禁煙を決意したのが2003年4月。以来13年と半年間、1本も吸っておりません。いろいろ訳あってやめたのですが、そのとき我が胸に立てたひとつの誓いがあります。すなわち、己ひとり無煙大陸に上陸したからといって、いまだ有煙大陸に暮らすかつての同士たちを、ゆめゆめ差別することなかれ、と。てめえも楽しくスパスパやってたくせに、手のひら返してかつての同士のケムリを煙たがってんじゃねえぞ、と。


 この誓いも、破られることなく今もこの胸に立てられたまま。しかしながら、世の中の喫煙者に対する風当たりは和らぐ気配など微塵もありません。むしろ厳しさを増すばかり。筒井康隆先生著「最後の喫煙者」がもはやSFでない、そんな感覚すら覚える昨今。


 やめちゃったからすっかり疎くなったんだけど、「マイルドセブン」て、もうないんでしょ?なくなったっつーか、名前が変わったんでしょ?「マイルド」という言葉をタバコに使うのがいかがなもんかってな議論があってのことだとか。いいじゃんそんぐらい!あくまで相対の話でしょ。「セブンスター」に対する「マイルドセブン」とか「マイルドセブンライト」てことでしょ。問題ないどころか、分かりやすくていいじゃん!総じて「毒ってマイルド」と解釈される恐れがあるなんて理屈は、屁理屈というより難癖もしくは言いがかりと呼んだ方がふさわしい。


 やめちゃったからすっかり疎くなったんだけど、あたしが吸っていた頃より倍以上するんでしょ?値段。原料が高くなったとかじゃなくて、税率がそれだけ上がったってことよね?世界中の先進国が、取り組みやすい増税措置としてやっていることだけど、それならそれでせめて喫煙者に感謝しなくちゃ。いーっぱい国に税金納めているんだもの。みんなが煙で迷惑している。そのぶん税金をいっぱい払っている。それでチャラじゃん!


 やめちゃったからすっかり疎くなったんだけど、周りにそれほど迷惑かけないタバコも売られているんでしょ?電子タバコですか?紙巻きタバコのように、いわゆる副流煙による周囲への害は、ゼロとはいわないまでもぐっと少ないんでしょ?


 それだったら、別にいいじゃん!勤務中にデスクで吸おうが、火を使わないものなら路上で吸おうが、電車の車内は遠慮するとしてもせめて駅のはじっこでぐらいなら、吸ってもいいじゃん!


 なのに、そんな電子タバコですら、ほとんどの場所でご遠慮願います状態だとか。条例で禁止されている地域まであるとか。


 火が危ないからとか、煙が他人の健康を害するからとか、そういう悪い要素が消滅したものを楽しむことを禁止するのって、ファシズムでなくて、何?


 タバコ‘っぽい’からNG。これはどうにも納得しがたい。視界に入ると不愉快になるぐらいのことで追いやられるのって、差別でないとしたら何でしょ。それを受け入れて、高い税金まで払って、健気に片隅で電子タバコを楽しむかつての同士が不憫でなりません。日夜努力を重ね、電子タバコなる発明をしたタバコ会社の精鋭たちが不憫でなりません。


 昔の刑事ドラマ。電柱の影で張り込み中のデカ。足下には何十本もの吸い殻が。そりゃいかん!犯人発見。くわえていた煙草をそこらにぽーんと投げ捨て猛ダッシュ。そりゃいかんよ!!


 確かにかつての自分や同士による社会への配慮に欠く行為は、目に余るものがありました。大変申し訳ございませんでした。今だって、ポイ捨てが根絶されたとは、ちょっと言いがたく。だけど、だいぶ反省したっしょ、同士たち。肩身狭く、細々と、端っこでこっそり一服してるっしょ。


 ぼちぼち、許してあげてはもらえないすかね。


 空気至上主義な近頃の(否、昔から?)我が国(否、この世界?)。嫌煙嫌煙また嫌煙。こうなったら水蒸気も煙とみなす!棒状のものを口にくわえて吸う行為はおしなべて喫煙!それが今の空気!て、それはいくらなんでもご無体な。空気がどうあれ理不尽は理不尽。喫煙者が「吸わない人への思いやり」を問われる。そりゃ当然。ならば非喫煙者も、そろそろ「吸う人(吸う自由)への思いやり」に思いを寄せても良い段階に来ているのではないかと、このように思うわけであります。せめて電子タバコぐらい認めてあげても、ね。


 真心のライブバンド、MB'sにおいてはブラス部隊「Mountain Hons」の4人が喫煙者。2003年に僕が無煙大陸に鞍替えした際、彼らからのバッシングは相当なものでした。曰く、


「ただでさえ喫煙者の生きにくい世の中。ここで桜井君が禁煙するということは、真心ブラザーズのバンドのみならずスタッフ込みの、喫煙非喫煙者の勢力図が大きく変わるということ。君は俺たちを置いてゆくのか。俺たちを、世の中から追いやられた俺たちを、バンド内でも追いやるというのか。」と。


 追いやってしまいました…。「喫煙部屋」と呼ばれる一番奥の楽屋に…。


 打ち上げで、すんごいはじっこの席で、申し訳なさそうに電子タバコをぽわんとくゆらす寅蔵くんの切なさよ。


 ルーレッツにおいてはハル君が唯一の喫煙者。団体行動のわずかな隙をかいくぐって、ひっそり姿をくらまして一服する彼。常に周りに気を使いながら、一服チャンスをうかがう彼。戻って来たら、匂いが残っていないか気にする彼。いいよ、大丈夫だよ、そこまで気にするなよ!


 みなさん。


 僕あ、あいつらが、もうちょっとだけ世界に優しくされてほしいのです。