みんなカレーが大好き。特に、男。もっと言えば、男子ミュージシャン。


 ミュージシャンなる人種は大別しておたくの部類に入ると考えます。内に内に、こだわる気質を持つ輩。やれどこそこの街のなにがしという店が美味だの、スパイスの調合がどうだの、スープカレーは果たしてカレーカテゴリーに入れるべきか否かだの、議題に事欠かないジャパニーズカレーミュージシャンズ。


 しかし秀俊思うのです。


 カレーなんて、大概おいしいよ。おいしくなく作る方が難しいよ、カレー。そこがいいんじゃないの、カレー。


 楽器でいうならエレキギター。6本全部おさえているつもりが3本ぐらいしか鳴らなくてもなんとかなる。それがエレキギター。こんな俺でも楽しく、かつアドレナリン大放出で音楽することができる。それがエレキギター。小学校の体験キャンプとかでもなんとか美味しく作れ、なおかつガツンと刺激的なお味の晩ご飯。それが、カレーライス。「俺にもできる」そう思わせてくれるイカした何か。両者共に、ロックンロール!


 だからみんな、ぐっときたんじゃないの?エレキも、カレーも。


 ちょっと弾けるようになったらビンテージとか持っちゃってさ(それ俺)。こだわりのプレイスタイルとか主張しちゃってさ(それ俺)。中学の頃しょっぼいアンプにやっと買ったやっすいギター突っ込んでさ、それでも全身が痺れたあの感覚を忘れちゃったのかよ(それ俺ですって!)。


 スパイスの調合にこだわるのもいいよ。でもスパイスってさ、加えるものじゃん。ふりかけるものじゃん。エレキでいうとアンプだよ。あくまで大事なのはハートだろ。素材のうまみだよ。エレキでいうと楽器そのものだよ。うまく言えないハートのまん中を、アンプへの過剰な入力で得たオーバードライブサウンドがバチっとカタチにしてくれる。同様に、うまく調理できなくてごっちゃに煮込んだ好物素材をオーバードライブしてくれる魔法の粉こそが、スパイスなのです。スパイスのみを香るのではない。まして食うのではない。七味唐辛子そのものを食おうとはしないでしょ?食うのは、あくまでもハートなのです。不器用な俺たちのハートを、不思議に美味しくしてくれるマジックツール。それが、ロックンロールカレースパイス。エレキギターとおんなじなのさ。アンプだけじゃ音は出ないだろ?ギターつなげて魂こめて弾く!あとは、気合い!!


 「日本の食品メーカーのカレールーは、凄い。誰が食べても美味しい、完璧なルーだ。」


 かような意見もよく耳にします。


 確かにそうかもしれません。日本の理系(とりもなおさずおたく)、まじやばいもん。資金潤沢な大企業で日がな商品開発に精を出せば、世界に誇る日本の理系だったら、そりゃ結果出しますよ。


 しかし秀俊思うのです。


 誰が食べても美味しいのが、完璧なカレーなのか?


 ピリッときて脳がかーっとなって飲み物と見まごうほどに秒殺ならぬ秒食いしちゃう!ある意味極端な食べ物、カレー。その刺激による中毒性こそがカレーの醍醐味。


 ならば、誰かの舌に一生抜けないトゲを刺す。またそのトゲが欲しくなる。もうそのトゲなしでは生きている実感を持つことが出来ない。たったひとりにでいいから、そんなインパクトを残すカレーこそカレーとして完璧といえるのではないかしら。嫌いなひとがひとりもいないなんて、そんなの麻薬中毒的魅力を持つに至るわけないじゃん!


 そう思うのです。


 と言いながら、バーモント、めっちゃ好きっすけどね!あくまで、カレーにおける「完璧」という言葉を、そこに用いるべきか否かの話ね。どうかご理解を。


 煮込みすぎてバラバラになっちゃった鶏肉。冷蔵庫の残り物で、挙げ句カタチもくそもなくなった野菜たち。あきらかに投入しすぎたにんにく。酔っぱらってビール注いだね。でも気持ちをこめて、焦がさないように注意深く見守りながらことことことこと。キッチンドランカーすっかりべろべろ。ヨーグルト入れたような、入れなかったような…。そんなデタラメ料理を、ばしっとまとめてくれるカレー。刺激のマジックでここに出来上がったのは、センス一発でキめる一期一会のロックンロール料理だ。今このひとときを、俺は皿の上に表現することに成功したんだ。


 君に食べてほしい、俺のカレー。いつものテキトーカレー。


 なんて、カレーにもロマンを求める俺なのでした。