いつもの昼下がり、いつもの電車移動、ぼーっと見上げた吊り広告に、不意をつかれてのけぞりました。


「おしゃれ 美乳。」


 下着姿にカーディガンを羽織っただけのかわいらしい女性が、ほほを赤らめ唇をはんぶん開き、潤んだ瞳でこちらを見下ろす。何事かと。


 マガジンハウス社発行、ご存知an.anの広告。なーんだと溜飲を下げるどころか、ざわつきを増すこの胸。


 「今、欲しいのは」と控えめな文字サイズ。続けてどーんとフォントをでかくして「おしゃれ」うっすら半角を開けて「美乳」、とどめに「。」。モー娘。か!


 何事かと。この猥雑さおよびエロさはいったい。


 女性に向けたおしゃれ雑誌の、女性だけできゃっきゃはしゃいでいるモードではない。下着のテレビCM的「かわいい」に力点をおいたそれではない。明らかに、男、否、オスに訴えかけるウエポンとしての「乳」を獲得するわよ!という肉食ほ乳動物的目線の広告。その攻撃性に、思わずのけぞったわけであります。


 いよいよ女の人が己の欲望をむき出しにしてきた。


 十数年前からこんな思いが胸をよぎりだしました。それこそan.anの抱かれたい男ランキング企画にはじまり、表紙に旬の俳優やサッカー選手が真っ白なシャツの胸をはだけてどーん!とかね。ドラマ眺めてたら、ストーリーと関係なく主役の男の子が突然上半身裸になったりとかね。あきらかに女性サービスで売り上げアップを計る態度が加速度的にあからさまになってきておるなと。そうなんだ、女のひとって、男(前)の裸が好きなんだ、と。そう、そのことすら知らなかったのです、僕。


 筋肉ムキムキの男の裸なんて、ナルシストかボディビルダーかモーホーの皆さんぐらいしか興味がないと思ってたもの。あたしを含めた人類の大半は、男の裸なんてものは出されちゃ迷惑だ、ぐらいに認識しているものだと思っていましたよ。だって、ちょっと前まで、女の人はムキムキにドキドキするもんだなんて、公言していなかったもの。


 それが、欲望をむき出しにしてきた…!


 おしゃれな洋服、かわいいバッグ、髪型メイク…それだけじゃもう足りない。エロもしっかり満たしていきまっせ!そんなバイタリティーを感じます。はっきり言います。おっかねえっす!


 ただでさえ女の人にかなう気など全くしないのに、そんなにはっきり、エロの件まで表立って強く言われた日には…。an.anもはや軽くエロ本すよ。男性向けエロ本は、駅にでかでかとポスター貼らねえすよ。ところが女子は、an.an の名の下に東出なにがし氏の乳首をさらす、おしゃれ美乳なる造語を吊り広告から投げつける、もー、エロ放題。かないっこねえっす。もー、おっかねえっす!!


 それにつけても、「おしゃれ 美乳。」。


 ノートいっぱいに書きたくなる言葉です。