小川さんのシンセ。
真心の現場ではミニムーグを使用していました。茶箪笥風の、古ぅい奴。でも、今のデジタルシンセでは絶対に出せない、ぶっとぉい音。モノシンセ。音が同時に2つ以上出せない奴。でも、鍵盤を押してなぞのツマミをぐりぐりすると、UFOがびゅんびゅん飛び交う。
真心の曲に、スペイシーでファンタジーな味付けを存分にしてくれました。小川さんのムーグが鳴ると、俺の心のミラーボールがぐるんぐるん回り出すのさ。
ただし、古ぅい楽器なもので、チューニングが著しく狂いがち。どーんと弾いた途端、空間に激しいねじれが生じることもしばしば。そんなとき、小川さんは少しも慌てず。更なるなぞのツマミをぐりっとひとひねり。「うひょひょほゅひょよよよよーーーーー!!!」と天空を駆けまわるミニムーグ。あっという間に音程関係なしの宇宙サウンドへ俺たちをトリップさせてくれるのさ。
ごきげんだぜ、小川文明。
小川さんのピアノ。
小川さんがピアノに向かう態度は、他の鍵盤に対するそれと明らかに違う。
ピンと背筋を伸ばして、まっすぐに、ピアノに対峙する。小さな子が、大勢の観客の前で、蝶ネクタイ半ズボンにタイツ姿で発表会に挑むような、そんな緊迫感を背中から放つのです。フランク・ザッパのTシャツにベルボトムで金髪長髪なんですけどね。そのギャップが、妙にかわいい。
それでもって、ロックンロールやらセカンドラインやら、イカした不良ピアノをノリノリで聴かせてくれるんですもの。真心の、そのままではフォーク臭すぎる曲にも、古きよきアメリカの風をやさしく吹かせてくれました。
いかすぜ、小川文明。
小川さんのオルガン。
キース・エマーソン、ジョン・ロード、ビリー・プレストン…。なにも言わずともそんなフレイバーをびんッびんにふりかけてくれました。
「空にまいあがれ」では、イントロから虹が見えました。「背景ジョン・レノン」のグリッサンド、指を骨折しないか心配しました。「新しい夜明け」、日曜日の教会とか、行ったことないすけど、ゴスペル気取り、思わずしちゃいます。恥ずかしいす。ぜんぶ、オルガンのせいす。
そして、「Relax~Open~Enjoy」。
MB'sライブ大団円は、エニタイム小川文明、オルガンソロ自由時間。一日の終わり、真っ赤っ赤に燃えながらゆっくり沈んでゆく太陽みたいに、熱く熱くとろけてゆくオルガンの響き。
わすれないぜ、小川文明。
小川さんのうた。
MB'sにおいては、ようこちゃんと小川さんのソウルフルなコーラスが、真心関西枠として有名でした。僕のなかで。
いちど、バンド練習を録音した音源を聴いたら小川さんのコーラスが異常にデカいという事件がありましたね。
「ぅるぃるあ~くス、ぅおぷぅ~んん、ぅえんじゅうぉおお~いぃ♪(リラックス、オープン、エンジョイ♪)」
上田正樹さんのものまねかと見まごうほどの熱唱ぶりにメンバー騒然。翌日の練習に恥ずかしそうに現れた小川さんが印象的でした。あの音源、どこいったかな。どうしても元気が出ない時は、あれを聞けば絶対勇気100倍まちがいなしなんだけどな。
僕としては、マウンテンホーンズのライブで小川さんが歌う「I feel good」が大好物です。本家JBがキレッキレ芸風ならば、小川さんはオルガン片手に重めに、艶っぽく歌うかんじ。屈強なブラスセクションを従えて、長い髪をなびかせながら「わるくないぜ」と歌う文明さん。ぃよっ!キングオブソウルfrom大阪っ。
キーボーディストの肩書でこの世を渡った小川さん。実はこの歌心こそが、小川さんのプレイを光り輝かせる大いなる源であったと、僕は思っています。
今自分はどんな「歌」をプレイしているのか。その答えから自ずと導き出されるサウンドを鍵盤を通して表現する、すこぶる素直に。だから、いつだってぐっとくる。
最高だぜ、小川文明。
しょーもないことでいっぱい笑って、いっぱいのお客さんにいっぱい音楽聴いてもらいました。終演後はいっぱい呑んで、しょーもないことでまたいっぱい笑いました。
あまりにも充実しすぎた時間が、そのぶん僕らを寂しくさせます。
この寂しさに、僕らがどれだけ幸福であったかを思い知らされます。
この幸福はもう訪れないという事実に、どうしたものか参ってしまいます。
参ってしまいますが、伝えておかなくては。
いっぱいの幸福を、サンキューです、小川さん。
オン キーボード、小川文明!!!!