「あかんやつら~東映京都撮影所血風録~」(春日太一・著)を読んで、鼻息を荒くしています。鼻息を荒くしつつ、この長編を読むという祭りが終わってしまったことの寂しささえ感じておるこの頃。
日本映画の黎明期から現在に至るまで、東映京都撮影所とそこで働くスタッフや大部屋俳優を中心に、アツい映画人たちの栄枯盛衰をドキュメントしていくノンフィクション。著者春日氏の十余年にわたる膨大な取材と絶妙な語り口で、小生すっかり昭和にワープ。血湧き肉踊り、いっぱい笑い、涙させていただきました。
春日氏がこれまた1977年生まれという、小生よりずーっと年下、つまり物語の舞台になっている20世紀後半がご自身のリアルタイムよりぜんぜん昔というのもこれまた興味深い。若者が書くことによって良くない種類のおセンチ成分が排され、読んでいて小気味いい。そして何よりも、氏のこの時代の日本映画に対する並々ならぬ愛情(憧れといってもいいのかも)がびっしびしと伝わってきて、いいエピソードも悪いエピソードも手に汗握って読むことができました。
これまでうっすらと思っていた、
「子供の頃テレビで観たあの時代劇と、大学生になってからテキトーにレンタルビデオ屋で借りたあの映画と、仁義無き戦いシリーズと、極道の妻たちのかたせ梨乃と…なぜか記憶に残っているなー…」
そんな映画たちの監督が実はある特定の数人であったことが、この書を読み進めるうちに判明。
子供の頃好きだった歌謡曲の大半が実は筒美京平先生の作品であったことが判明した20歳頃以来の衝撃。知らず知らずのうちに、スタア演者でなく制作スタッフのアツい思いやセンスを意図せずキャッチしていた自分。人は、目でないところでものを見ているのだと実感した、久々の瞬間でした。
あのときの京平先生にあたるのが、今回の五社英雄監督。深作センセもサイコーだけどね。やっぱ、五社っちでしょ。なめたらいかんぜよ!
フジテレビ社員からスタートした経歴。銃刀法違反で解雇、家族の離散、「鬼龍院花子の生涯」での復活劇、その後に全身に入れた彫り物…。ヤバい、ヤバすぎる。数々の大物女優を撮影現場で脱がせていった人間力が物語るように、桜井青年が画面からキャッチしていたエネルギーは、半端ねえ”あかんやつ”から発せられているものでした。
これは一つ一つ、観直していかないと。五社作品。
そんな発見と更にもう一つ。
物語中、斜陽していく映画産業の中で戦う経営陣や制作スタッフの姿に、今現在すでに斜陽産業とささやかれて久しいポップミュージック界を照らしあわせ、なんだかすごい、大きなものをもらいました。
業種の相違にかかわらず、現場は日々汗を流している。くさっちゃう人も多いけど、みんな、音楽好きでしょ。新しい、聴かせたい曲があるんでしょ。ないなら仕方ないけど、あるんじゃ、やろうよ。全力で、届ける道を探ろうよ。他に何がある。
そんな気持ちにさせてくれる、あたしにとっての21世紀版「あしたのジョー」みたいな作品になりましたよ、「あかんやつら」。
映画も音楽も、頑張ろうね。
面白いの、みんなに届けよう。