まだ涼しい朝のうちに諸雑務を済ませたら、本日すすめるべき制作物の導入部分を確認しておきます。新しい曲のテーマだったり歌詞のキーワードだったり、企んでいることの概要だったり。


 それらを頭に入れたら、ノートとペンと携帯電話と海水パンツを持って近くの市営プールへ。


 桜井お気に入りのこの市営プール、わりと深めの50メートルプールがひとつだけどんとある古いプールで、大きな公園の森の中にひっそりあり、雰囲気が相当グッドなのです。入場料時間200円と実に通いやすいのは市営ならでは。しかも昨今珍しく刺青OKのため近所の親分さんがプールサイドで若い衆や夜の匂いぷんぷんのお姉さま方をひきつれてのんびり甲羅干しをされていたり。おかげでイモ洗いにもならず、騒ぎすぎる若者や無礼なおっさんもおらず、蝉の声をサラウンドで浴びながら実に快適に避暑を楽しめるスポットとなっており。


 プールサイドでノートを開き、考えが行き詰まったら泳ぐ。歌詞やメロディーを確認するためにぶつぶつ呟きながらウォーキングすることもしばしばな私、一人で来ているかなりあやしい真夏のおっさんとして常連さんやスタッフの方々に認識されているかもしれません。意識を創作においたまま泳いでいたら突然目の前を巨大な鯉や龍が横切って「うわっ」と我に返ったり。そう、龍や鯉は親分さんの背中の住人。真夏に水を得て生き生きしております。と、場内アナウンスが。


「お客さまにお願い申し上げます。当プール入り口わきに駐車中のクライスラー、黒のクライスラーのお客様。駐車禁止区域となっておりますので速やかに移動してください。」


 親分さーん、どう考えても親分さんでしょ!怒られていますよー!市営プールの脇にクライスラーを路上駐車って。


 2時間ほどプールで過ごし、徒歩でわずかのイタリア料理屋ラーメン屋蕎麦屋のどれかで昼飯。いずれにせよ、麺。水から上がったら、どんぶり飯や定食というよりは、なんとなく麺。そんな気分になるのは何故。


 注文が出てくるまでノートを開いて作業成果の確認。結果がよければさらなるイメージを膨らませながら食いまくる。結果がクソなら自分に絶望しそうな気分を追い払うために生ビールを注文する。


 腹ごしらえが終わったら灼熱のアスファルトを2分だけ耐え、地下を行くみなとみらい線へ避難。時間に余裕があれば途中下車して日本大通り駅頭上の放送ライブラリーをチェック。きれいなビルの冷房効きまくりの非常にゆったりとしたフロアーで、タダでなんぼでもテレビの貴重なアーカイブを堪能出来る夢のような施設。主に山田太一もしくは向田邦子ドラマをしらみ潰しに観まくる。真夏に楽しむ笠智衆や杉浦直樹。趣ありすぎてしびれるぞ!


 そんなことしていたらもう夕方。


 県庁脇を抜け、山下公園正面スターホテル屋上のビアガーデンで暮れなずむ海を眺めながらジョッキを一杯。今晩何を食うべきかに思いを巡らせる。お隣りニューグランドでちょいと背伸びか、中華街はずれの来亭で吉村由美さん似の態度の悪い中国人ウエイトレスに見下ろされながら上海焼きそばを食らうか、野毛まで繰り出してうろうろするか、地元に戻って心置きなく酔っ払うか


 なんて。 


 そういう1日を8月はなるべくたくさん過ごしたいと毎年考えるのですが、ろくに過ごせぬまま毎度あっちゅう間に夏は、夏って奴は去っていきます。「ためらった瞬間に夏はおわるかも」そんな歌の一節が心をよぎります。市営プールの、真夏でさえ冷たいシャワーは、もう地獄の冷たさでしょう。スターホテルの屋上は、秋の匂いが混じった風が吹いているのでしょう。


 


 2011年夏の総括に、宮城へ歌いに行ってまいります。