1980年代に思春期を過ごした僕にとって、RCサクセションの武道館ライブで過ごすクリスマスイブというものは、是が非でも経験したい、最も特別といえるあこがれの夜でした。


 お金も、連れていく恋人もないくせにプレイガイドに赴いたりチケットぴあに電話をかけたり。チケットが取れたらバイトでもなんでもするし、あの娘に声をかける勇気だって生まれるはずだ。けれども結局一度たりともチケットは取れぬまま。特別な夜は夢と消え、各種モチベーションは萎え、おとなしく現実に戻って勉強して受験して。おかげで合格はしたけれど、大学生になって浮かれていたらRCは終わってしまい、そして今や、清志郎さんはここにいない。


 そんな僕なので「忌野清志郎ロックンロールショー日本武道館Love&Peace 201152日~」と題されたこの日のイベントは、置き去りにしてしまった10代の大切な何かを取り戻すことのできた、とーっても感慨深い1日になりました。


 並みいるミュージシャンの皆さまに交じって、真心ブラザーズはアルバム「シングルマン」より「ファンからの贈りもの」、それからアルバム「初期のRCサクセション」より「2時間35分」をカヴァーさせていただきました。満員御礼武道館のど真ん中で。


 冒頭の思いをMC1万人にぶちまけたいのはやまやまだったのですが、内容盛り沢山の当イベントはかっつんかっつんのタイムテーブルで進行していたもので、演説衝動をぐっと抑え、曲の演奏だけに集中し、与えられた時間を務めさせていただきました。清志郎さんの満タン毒入りユーモアをお客さんと再確認するという、主宰者側より我々に課されたミッションはなんとか遂行できたのではないでしょうか。だって、僕らの出番の直前のゆずのお二人が、あまりにもさわやかだったもの。きれいな汗をいっぱいかいて「イマジン」とか歌うんだもの。そのあとぬるっと登場しておもむろに全身全霊で「贈りものをくれないか、つまらないものはゴミ箱に捨てるぜ~♪」と歌う402人組。悪い。悪すぎる。終演後に泉谷しげるさんをして、


「お前ら、あの曲は少しキツくねえか?」


 と言わしめた真心ブラザーズ、良い仕事をしたと自負しております。念を押しますが、僕らに関しては、選曲は自分たちでなく、あくまで主宰者側だったんですよ。とはいえ確かに“いいもの貰ったらチャンネー行き、つまらないものはゴミ箱行き”、そんな猛毒ソングに僕たちは、どっぷり影響されていたのです。歌うことによって、自分の体の何パーセントかがRC製であることを思い知らされました。


 あれは確か中学1年のときだから、1981年ぐらいでしょうか。NHKの「YOU」で見たRCのスタジオライブ。それはもう、ヤバかった。あれを見てどうにかならない奴とは友達になれないと思った。


 その、新井田耕造さんのドラムスがあの時浴びたのと同じビート及びサウンドで今、生で鳴っている。チャボさんのセクシーかつイノセントなギターが乗っかる。梅津さんのアルトサックスのソロが武道館の天空を舞う。


 そうだ。俺は、ずっとここに来たかったのだ。やっと、この音を聴けたのだ。


 認めちゃったらもうダメでした。


 「真に受けたら泣いちゃうから出番以外はなるべくテキトーにしていようっと!」


 朝からそう決めていたのに。もう、ぜんぜんムリ。


 高野寛さん浜崎貴司さんユニットの歌う「Day dream beleaver」。会場の合唱に我が涙線は決壊。


矢野顕子さんの「ひとつだけ」。オリジナルの歌詞では「白い」となっている心の扉を清志郎さんの発案により「黒い」に変えたというエピソードになぞって歌われた、「欲しいものはただひとつだけ あなたの心の 黒い扉 開く鍵♪」。長年のあっこちゃんファンのあたしゃその瞬間腰砕け。涙線はもはや我が管制下にあらず。


 サンボのみんなと無駄話とかしてやっと落ち着いたと思ったら、始まったのは後半の目玉すなわちRCメンバーをはじめとする豪華バック陣を従えた弊社顧問奥田民生氏歌唱によるキングオブキラーチューン、「スローバラード」。かつて清志郎さんの歌にブッ飛ばされた一人の青年が、経験値と実力を得、かの巨人の幻影に挑むように己の全部を駆使して放つボーカル。圧巻。小生とどめをハデにもらいました。顧問、あんたもゴイスーだぜ。


 打ち上げも最後までいたのに、流しそうめんもたくさん食べたのに、気がついたら自分がひとり流れてもう一軒。そこで偶然久方ぶりにお会いした鈴木慶一さんと朝まで呑んでしまいました。


 嬉しい一日の終わりを、火の玉ボーイというこの上ない豪華な再会で締めくくった2011/05/02。慶一さん、あの日はあえて連絡先の交換的なことを控えさせていただきました。また、あの呑み屋でお会いしましょうね。あくまで、ばったり。そしたら、なんか企ませてくださいね。


RC to the Moon Riders! What a cool that night was!!!!


 


 10代の俺よ、俺を打ち抜いた雷よ、サンキューな。ずーっと好きでいると、面白いことが起こるもんだぜ。