先日、ジョギングに出かけようかと自室で自慢のワコールタイツに片足を通していたところ。


 がちゃ。


 ドアを開けた妻。視線の先には片足をつま先まで伸ばしタイツに足を通すバスロマンの藤原紀香さんさながらのカタチの夫。


 恥ずかしゅうございました。パンツ履いているところを見られるほうがなんぼかましだと思いました。


 一体この世に、タイツ以上に着けている様を見られたくない衣服があるでしょうか。なんなのでしょう、あの、申し訳ない感じ。どんなに凄腕のアートディレクターでも、タイツのCMでモデルに商品をかっこよく履かせることは至難の業だと想像します。美しいモデルさんであるほどむしろ、履いている最中を映されたら、なんかいけないものを見てしまった気になってしまうのではないでしょうか。着用済みの美脚をアピールして逃げるしかないかと。なんなのでしょう、見ても見られても申し訳ないってえのは。


 妻はそそくさとドアを閉め、ドア越しに夫婦は会話し、用事を済ませたのでありました。


「ジョギング行くなら帰りにパン買ってきてくれる。」


「うん、わかった。」


 ジョギングしながら街に異常がないかパトロール。その日はあたしにとってちょっとした事件が。


 十数年来楽譜のノートを買っている近所の文房具屋さん(詳しくは昨年の820日「ステイショナリークレイジー」を参照ください)のドアやら窓やらに「半額セール!」の張り紙がべたべたと。何事かと覗いたら悪い予感はばっちり当たりました。


 店じまいするそうな。


 とりあえずコクヨの12段五線紙ノートをある分だけ買占めようと思いましたが、残っていたのはたった2冊。2年はもたせたかったのにたったの2冊。春までもつかどうか。


 ま、きっとネットやらなんやらでまとめて入手は可能なのでしょう。でも、そうじゃないんです。自室での創造作業に限界を感じた時に表に出て、考え事しがてらノートを求めに…とかね。そういう、付加価値のつく気分転換お買いもの時間が、わりと大事だったりするわけで。


これからは、ただ煮詰まったから外をうろうろ歩くおじさん。まっさらな五線紙が与えてくれたリフレッシュ気分を、明日から一体何にもとめましょう。


 6枚切りの食パンと2冊の五線紙ノートをこ脇に抱え、タイツで走って帰る俺でした。


 


 世の中の変化には、まあ付き合わざるを得ませんが、なんとか面白がっていきましょう。今までもこれからも、間抜けもハッピーもラッキーも、そして最高も、そこいらじゅうに落っこちているはずです。


 そいつをどうか、見逃さないように。


 ちなみに初めて知ったのですが、文具屋の御主人は双子でした。店内に見慣れたおじさんが同じ顔で二人!73の分け目もシンクロ!60に手が届こうかという同じ顔のおじさんが狭い店内に二人って、なんか迫力ありました。つきあい十余年の新事実としては余りあるインパクト。


 しかも、普段別の仕事をしているどちらかが閉店セールの応援に特別に呼ばれたとも思えない。だって二人とも、お客さんへの対応が同等に堂に入っている。二人とも、お店の隅々まで熟知している面持ち。だとしたら、おかみさんと思しきおばちゃんは、一体どっちの奥さん!?


 謎はおそらく迷宮へ。


 いいじゃないですか。俺の中の未解決事件。この先も、五線紙を目にするたびに、ふと思い出すのでしょう。


 どっちの嫁だ。