改めましてこんばんは、桜井秀俊です。好きなテレビ番組は、「ブラタモリ」です。さて私今月頭のとあるド平日、午前中から梯子アートしてみました。


 梯子酒ならぬ梯子アート。文字通りアートを数件渡り歩いてやろうと。


 AM10:30。まずは一件目。地下鉄乃木坂駅から直接、つまり雨が降っても濡れずに行ける国立新美術館へ。地下鉄が美術館と直結。東京って、すげーなー。僕が行った時点でなんと入館20万人を突破していたというゴッホ展。ド平日午前中にもかかわらず大勢のお客さん。主にじーちゃんばーちゃん。全国からツアーとかでおいでになったのかしら。まあなんとか普通に鑑賞は出来ましたが、土日休日は大変な混雑だったのでしょうね。昔の人がみんなで拝められるように大仏作った気持ちが分かります。


 小さな絵まできちんと観られたことはラッキーでした。一発目、初期の自画像からノックアウト。凄まじいエネルギー。


 「こうして私はゴッホになった」というサブタイトルが付けられた今回の展覧会。時系列を追い、傍らにその当時ゴッホが影響を受けた絵画を展示し、彼のアートの成り立ちに迫るという主旨。彼がお手本としたであろうとされる作品より、彼の作品は並べてみればいちいち荒い。それを「不器用」と評した新聞もありましたが、僕が感じたのはお手本に憧れているのに自分でやるとどうしてもそこから気持ちがはみ出してしまう、大好きなのに抱きしめたらいつも傷つけてしまう、そんなロックの爪あとたちでしたよ。ついついギターアンプの入力を超過させて歪んだ音を出してしまう。ついついコントラバスの弦をスラップで弾いてばっちんばっちん鳴らしてしまう。ついついもうこの曲が終わるまで休むことが許されないほどどかどかドラムを叩いてしまう。歌詞を言わずについついシャウトしてしまう。そんな表現は120年前、つまりロック以前のおフランスではありえなかったのではないでしょうか。当時の業界人がシャンゼリゼ通りのオープンカフェでワインに溺れて説教している様が目に浮かびます。


「ホーゴツ選手~、自画像を補色で構成はさすがにさ~、ない・ありえで。あと、リーパー的にはテンガロンハットもアリナシでいうと、ナシかな~。」


 そりゃ耳もそぎ落としたくなるよなー。やってらんなかったんだろうなー。そう思いながら希望と絶望が背中合わせのロックンロール絵画をこの眼にぐりぐり押し込んできました。そう、ホーゴツ選手は、ロックンロール誕生以前のロックンローラーだったのです。その孤独たるやいかほどだったか。お察し申し上げます。選手の孤独と火花、確認完了。


 正午過ぎ、2件目へ。徒歩5分。東京ミッドタウンの一角にて開催されているという佐藤雅彦さん監修の「“これも自分と認めざるをえない”展」へ。


 ランチタイムだというのになんと人が並んでおる。入場するのに。先ほどとうって変わって客層が、若い。「デザインやってます!」風の輩と、ガイジン。佐藤さんファンって、こんな層なんですね。並びながらなんとなく納得していたアタシです。


 入ってみて再び納得。これは楽しい。展覧会だというのに、お客さんに「参加」を要請する。ここが、新しい。展覧会をライブもしくはアトラクションにしてしまった。オーディエンスは楽しみ、スリルを味わい、不安を覚え、そして、考える。


 「属性」をテーマとした本展覧会。人種に国籍、性別、年齢、職業、学歴や前科、指紋からはたまたDNAに至るまで、この社会から誰かを特定するためにその人の持つ「属性」が使用されます。中には「俺ってこんなカテゴリーに属しているの!?」と、自分では思ってもみなかった枠にはめられていることも。僕はあるサイトで「一重まぶたの芸能人」にエントリーされていて大笑いしたことがあります。や、笑いました。こんなに大きなお世話を焼かれることも滅多にないだろうと。皆さんもこんな風に、大勢の中に紛れていても、何らかの鍵を開けるだけで急にピンスポを浴びることになったりするわけで。面白さと、恐怖さえ孕んだこのテーマに沿った作品の数々が佐藤さんディレクションにより構成された当展覧会。しかも殆どの作品がただ眺めているだけでない参加型。そりゃー面白いわ。


あまりの混雑に僕自身はあんまり参加できず、参加しているお客さん込みの作品を眺めて楽しませていただきました。参加、ライブ、“今”を反射する表現。こちらも全てがロック!ロックンロールのコンサート!佐藤さん、大変お疲れさまでした。最高でした。


 ミッドタウンのイートインで讃岐うどんを腹に流し込んで、いざ3軒目。こちらも徒歩で六本木ヒルズは森タワーの52階へ。


 ここではあの、ブリキのおもちゃ収集で有名な北原照久さんによる題して「北原照久の超驚愕現代アート展」なる催しが。サブタイトルには「驚く・あきれる・楽しめる!もうひとつの北原コレクション」とあります。琴線が、魂の琴線が鳴り響きます。3軒目にふさわしいことこの上ない店、もとい、展覧会。


「部長はきっとお好きだと思いますよ~。」


「おいおい桜井くん、お手柔らかに頼むよ。」


3軒目ならこれくらいの怖いもの見たさドキドキが必要でしょ。


 北原氏がプッシュする現代アートの旗手たち。そのほとんどが無名の芸術家。氏が「これは!」と思い買い続けた数々の作品たちがここギロッポンの天空に大集結!


 さすが北原氏。入った瞬間からのけぞらせてくれました。透明なアクリルケースに入れられた半裸かつコスプレな少女フィギュアの数々…。恐怖にひきつった表情だったり顔がペンダントのカメオよろしくぱかっと開いていたり。確かに凄いクオリティそして迫力。しかし、心はこうつぶやいてしまいます。


「やー、狂っていますなー。」


 数々のアーティストによる数々のぶっとび作品たち。共通していえるのは世界に誇る日本人のおたく気質すなわち、“細部の細部まで徹底的にやる”精神性。


 と、係員の人が急にアナウンス。


「本日は北原館長がお見えになっております。これより奥のブースでトークショーを行いますので皆様ぜひご参加ください。」


 これはなんたるラッキー。横尾忠則さんによる天井桟敷のポスター(勿論本物)に囲まれたそのブースで北原館長の武勇伝をたっぷり拝聴し、のみならず館長、自らお客さんを誘導して作品を紹介し始め、挙句の果てには“Don’t Touch,Please”印のある機械作品の電源をおもむろに入れて流麗な解説付きでどんどん稼働させてしまう。ま、自分のものだから触って楽しんで当然ですが。


 なんにせよ思わぬご本人登場で、入場料以上の濃密なひとときを過ごさせていただきました。サンキュー館長。やー、狂っていますなー。


 日も傾きかけたギロッポン。朝から天才たちのゲージツパンチをふんだんに浴びて、感じ疲れました。3軒の梯子アート。ゴッホに佐藤さんに北原館長。とどめには当人登場。部長、楽しんでいただけましたでしょうか?私もう、呑めましぇん!


 


 秋もそろそろ終わります。


 徒歩15分圏内でこんな展覧会が3っつも催されているなんて、東京はやっぱりすげーとこです。


 冬は、何して遊ぶ?