いい感じになるであろうことは予想しておりましたが、まさかこれほどとは。リズムトラックのOKが出ると、あたしはもちろん、明らかにミュージシャンやスタッフすなわちスタジオ全体の温度がぐぐぐうっと上昇した、あの感触を昨日のことのように覚えています。SMAオールスターズ初のレコーディング。いわばウルトラ怪獣大集合。思った以上のド迫力でした。


 そこにリード楽器をオーバーダビングします。リードっつたら、王道はエレキギターのソロ。SMAにはロックバンドがいっぱい。エレキ弾きもいっぱい。なるべくスペースを作ってなるべく弾き倒していただきたい。でもまあ、メタルじゃないんで精一杯頑張って設けて4か所でした。間奏で2人、最後のサビにかぶせる15小節を8と7で分ける。合わせて4人。さあどうする、誰を選ぶ。誰の恨みも買いたくないぜ。誰もが納得する代表メンバーの、しかも演奏の花形であるソロパートの人選。誰か、ガスター10をください。


 一発目。突撃するならやはり若いパワーで。ベースのハマくんに続きここにもいましたいまだティーンエイジャーの、しかも次代ギターヒーロー最右翼。黒猫チェルシーより澤くん!俺がデモで弾いたフレーズを律儀にそのままコピーし、しかし俺よりずっとパワフルかつセクシーに弾いてくれました。あのときは言わなかったけど澤くん、ギタリストとしてのポテンシャルの差をまざまざと見せつけられて俺、こっそり、傷ついていたんだぜ。なにも全く同じフレーズをあそこまでかっこよく弾かなくたって…。どうか2010年代のギター界をよろしくたのみます。


 続いて登場、チャットモンチーより橋本さん。澤くんによる男気丸出しの直後にえっちゃんの華やかなアコースティックギターサウンド。ここはプロデューサーの目論見がばっちり当たりました。緊張と緩和。火をつけて水ぶっかけて。終われない熱血マンガのカタルシス。ちっこいかわいいえっちゃんの高音部分をカウンターで追う低音バリトンサックスが180センチを超える長身銀幕スター顔の谷中さんであるという小さな恋のものがたり風コントラスト(古い、古すぎる)も、こっそりおいらの細かい演出でがんす。俺にはもう、えっちゃんと谷中さんがチッチとサリーにしか見えないぜ。


 さてラスサビに絡む最初の8小節。ここはやはり大御所で。白井良明さんにお願いしました。「みんな、泣いたっていいんだよ」とやさしく言ってくれているような、盛りあがらざるを得ないギタープレイ。こんなの弾かれたらこのあと誰が出てくりゃいいのよ。そう、もう、あのご仁しかおりません。みんな、せーの!


 ローリーさーーん!!


 弾いてくれました。やってくれました。サビ後半の7小節でいいと言ったのに、そのあとのエンディングいっぱいまで合計16小節強全くピックを置く気配がない。すっかり曲が終わって奥田さんがスティックを置いてもローリーさん、アームを離さない。エンディングのスカパラホーンズのおいしいフレーズを足蹴にして、弾く、弾く、弾く。トロンボーン北原さんのむっとする顔を思い浮かべながら、最後まで言えませんでした。


「そこは弾かなくていいですよ。」


 このひと言が。誰か、誰かガスター10を持っていませんか。


 北原さんのむっとする顔は、怖い。


 今回の曲ではブラスの他にストリングス、といってもヴァイオリンとチェロが一人ずつという小さな編成であるということでブラスのアレンジもややおさえ気味にせざるを得ませんでした。全体のアレンジ上、ブラスとストリングスはいうなれば飛車と角。役割こそ違えど戦力は均衡を保たないと全体が崩れてしまう。今回はストリングスという角がこういう戦力なので、飛車の兄さんには控えめなアレンジでお願いしようかと。


 とはいえ普段世界中のダンスフロアを熱狂の渦に巻き込んでいるスカパラホーンズ。血沸き肉躍るブラスサウンドを看板に20年以上日本の音楽業界に君臨してきたスカパラホーンズ。そんな兄さん方に「ここはひとつ大人になって…」そんなメッセージのこもったふわ~っとした譜面を渡すのは実に心苦しゅうございました。


 と、北原さんが、


「あのさ、桜井くんさ、ここなんだけど、追加していい?」


「はいはい、えーと…。」


 差し出された五線譜を見ると、ギターソロ澤くんの箇所に追加のフレーズが。しかもすんごい派手なフレーズ。北原さん手書きによるオタマジャクシたちはこう叫んでいました。


「俺たちにもっと思い切り吹かせろよ!」


 と。


 この6小節は若い澤くんのギターを余すところなく聴かせるためにあえてブラスはお休みにしていた箇所。しかしどうして世界のスカパラホーンズのリーダーである北原さんの申し出を無下に却下することなどできましょう。結果、若い美系の新撰組でいうなら沖田総司が攘夷派浪士にばーっと切り込んで行ったら後ろから出てきた近藤勇や芹沢鴨が沖田が狙った敵をずばずば切っちゃって…。そんな総攻撃な数小節に相成りました。そういった耳で聴いていただくのもまた一興かと。澤くん、頑張れよ。


 一方の角。ヴァイオリンに宮本笑里さん、チェロは分島花音さん。お二方とも別嬪さん!


 学生時分に軽音楽部なんぞという校内部活動中最もちゃらちゃらした団体のしかも部長という職にあった私としては、同じ音楽部門の部活であるブラバンと弦楽合奏団にはコンプレックスを持ちつつ学園生活を送っておりました。まだブラバンにはやさぐれた輩も数名おり、そいつらと通じてやさぐれた音楽や私生活を楽しんだものの弦楽は違います。基礎がある。素地がある。育ちがいい。将来もある、そんな気がする。一方的にそんなイメージを持っていたもので、弦楽チームの、しかも美人にはすこぶる弱い。正確に言うと、瞬間的に卑屈になる。


 卑屈になりきったおいらに構わず、お二方とも実に真摯にレコーディングに取り組んでくださいました。やさぐれ軽音部に突如放りこまれても、与えられたテキストすなわち譜面を読み込み、ひとつひとつの音符に対してきちんと答えを出してから現場に臨む。うーむ正しい。しかも美人。やっぱりあたしはあなたがたにコンプレックスを抱きます。クラッシック、凄いね。楽器が高そう!


 


 あのー、どうしましょう。ぜんぜん話が終わりません。


 なんとかイベント本番前に、ボーカルレコーディング編以降を。


 まだまだ痒くもないところをぽりぽりしてあげるぜ。なに?若干ひりひりしだした?またそんなぁ、遠慮しないで。もっともっと掻いてさしあげるってば!


 ガスター10をぼりぼり食ったあの日々に、今度こそ決着を!!