職業柄、正確には役割柄、五線紙のノートを多用します。バラ売りのケント紙製五線紙はかさばるしサイズが中途半端でコピーしづらいので、書いた時系列で整理しやすくB4でコピーも取りやすい五線紙ノートを近所のちっちゃな文房具屋で購入し続けること十余年。
うすうす感づいてはおりました。このノートを買っているのは、この辺じゃ俺だけなのであろうと。この文具屋さんは俺のためだけに、定期的にこの商品を仕入れているのだろうと。多用するとはいってもロックバンドのギターの奴がひとりで書く量なんてたかが知れています。うすうす感づいてはおったのです。「アピカ」なるマイナーなメーカーから俺だけのために取り寄せるのは、採算的にうまくはないのではないかと。
ある日、突然別れはやってまいりました。文具屋のご主人、
「何かおさがしですか?」
「あ、えーと、五線紙を。」
「こちらの、まあ音楽の授業で使うようなものならご用意出来ますが…。」
「この、8段のやつですよね。」
ジャポニカ的なそれ。ひとめでわかる小学生ユース。これはちょっと、並みいるプロミュージシャンにはいこれ新曲の譜面ですと渡すのは…。
「12段のは…」
「申し訳ございません、置いていないんですよ。」
置いていない。少なくとも10数年は置いていたではないですか。これはもう、この「置いていない」は「もう置かないよ」と取るべきか。がっくりうなだれて手ぶらで帰宅。B5サイズで12段で使い勝手のよい五線紙ノートって実はあまりないのよ。ロフトも有隣堂もスカ。しばらくはあのお高くとまったケント紙で我慢していました。
ところが先週。
しばらくぶりで入ったご近所文具屋さん。
ダメもとでひょいっと覗いたノートコーナーにあるじゃないですか!B5の12段。しかもノート業界最大手Campusさんの。
もしかして手を引いたのは文具屋さんでなく、大本のメーカー「アピカ」さんだったのか。厳しい経済状況が続く折、五線紙ノートが好調になるとは考えにくい。やはり製造そのものをあきらめられたのか。お店の棚からそのまま消えてもやむなし候補最前線の五線紙ノートとはいえ、あまりにがっくりきたおいらの背中を見て文具屋ご主人、大手さんから取り寄せてくれたか。
真偽は定かでありませんが、即座に数冊購入したあたしは先日とうって変わって小躍りしつつ帰宅。仕事にとりかかったのでした。
さすが天下のCampusさん。作りがクール。「アピカ」さんの表紙及び裏表紙の背中、つまり1ページめの左サイドと最終ページの右サイドには、記号や音符などの解説がついておったのですが、このCampus君にはそれがない。「そんなことおめえ、わかってんだろ」と言わんばかりです。正直僕はいまだに全休符と二分休符がごっちゃになることが。あれ、上に出っ張ってんのがどっちで、下がどっちだっけ、と。いい加減、覚えろってことですな。はい、頑張ります。
更に、ノートを開いた中央あたりに縦のミシン目が施してある。すなわち、ばーっと書いてびりっと破いて「はいこれ、追加のブラスのフレーズ!」なんつって手渡すのに適していると。おおお、クール。デキル感じ。アサヒスーパードライのCM風。僕にはまだそんな局面はやってきてはいません。いつかは破きたいぜ、ミシン目びりびり。レコーディング終わりで、生をごくごく。
そのうえ、各ページの上端と下端にはそれぞれ意味ありげな、目印と思しき小さな灰色の点が打ってある。これは、これはとりもなおさず、小節ごとの縦線を書き込む目印ではないですか!たまに1行をあらかじめ4小節ずつに区切った五線紙を見かけますが、これが腹立つ。3小節や5小節で改行したい局面が1曲の中でちょいちょい起るのに、あらかじめ縦線が書かれてあるとそれがうまくいかない。縦線は、俺に引かせろよ。
今までは定規を使って長さを計算し、4分割とか3分割していたあたくし。この、測るという作業が、どうもちまちましていていけない。今から書く曲までちまちましちまいそうだぜ。そう感じてはいたのです。それを、その気持ちをCampusさん、あなたわかっていらっしゃった。
「わざわざ測らなくて結構ですよー。この目印使ってくださいねー。」
ありがとう。まさか文具の最大手さんがミュージシャンのかゆいところをぽりぽりしてくれるとは。さすが世界に誇るジャパニーズコーポレート。感動しました。今後ともよろしくお願いいたします。
ちなみに譜面を書くなら迷わず鉛筆。消せるからというのはもちろん、8分音符のハタとか4分休符とか太さを変えて表現したいから。シャープペンじゃ役不足ね。特にペンテルさんのマークシート用鉛筆は書き味最高。濃さはBがジャストです。ぐっと力強い音符やコードネームを書き込むことができ、ミュージシャンへこの曲に対する思いが伝わります。ような気がします。
秋の俺ワンマンライブのために只今絶賛譜面書き書き週間のあたくし。Bの鉛筆でぐりぐり書いて力が入っているせいでしょうか、いいよ、曲。すげえ、いいのばっか。俺、出来る子ですよ。100年経ってもびくともしない曲がいっぱいですよ。
あとはそれを、どうやって表現するか。
自分の曲が、自分の首を絞める。
君に抱かれてくたばりたい。