俺の名刺は、かっこいい。それはもう、かっこよすぎていやらしいとさえ言えるほどに。

 紙がまず、良い。素材がどうで製法がどうでといったこだわり内容は一切知らんのですが、触った瞬間指先が感じる適度な重み、優しい手触り、ツヤ過ぎず荒すぎず、まぶしすぎない柔らかな白。この白の質感を背景として存分に生かし、必要最低限の情報のみを印刷するという極めてシンプルな作り。この時点ですでに軽くいやらしい。

 表面。右下に肩書き及び名前、すなわち「ミュージシャン(改行)桜井秀俊」と記されておる。この字体がまたいやらしい。なんというフォントでどういう場所で使われてといった専門的内容は全く分からんのですが、ちょっと背が低めの明朝体って感じ。絶妙な墨具合のインクとあいまって、昔の新聞を髣髴させる洗練と粗野が見事に同居した男前の文字っツラ。

 上半分と左下をあえて真っ白にしたのには当然、意味があります。すなわち客席から見ていただいた際の、舞台上における俺の立ち位置。社会におけるオレを、余白を使って端的に表現。どうです、いやらしいでしょう。

 裏面。右上には特別に考案してもらった、真心ブラザーズのロゴ。一見単なる漢字の「真」と思いきや(単なる「真」でも見てくれだけですでにかっこいいんですけどね)、ここにある小粋な秘密が隠されておるのです。反時計まわりに90度倒すと、そこに「TRUE」、正確には「tRUE」の文字が浮かび上がるといった細工が施されておるのです。つまりどういうことかと。「真」のてっぺんの「十」を左に傾けると「t」が、「目」の部分に「R」及び「U」が、一番下の部分に「E」が現れるといった秘密をもって、普段は縦で「真」の顔をしているという寸法。

 このことを初対面の美しき女性に説明して、

「わあ、ホントだぁ!」

 なんてコメントを頂戴。しかもこの「真」ロゴには朱色(これがまた、詳しくはわからんのですが、こだわりの朱)バージョンと金色(同じく分からんのですが、そんなゴールド)の2バージョンがあり、

「えー、どっちがいいって?えー、どーしようー。えー、両方いただけるんですかー?わー、ありがとうございますぅ!」

 どうです、いやらしいでしょう。通り越して、バカですか。そうですか。少々バカなほうが、楽しいと思うのですが、どうでしょう。




 こんな俺の名刺発注を受けてくれたのは、あの「グッドデザインカンパニー」代表、新進気鋭のデザイナー実は茅ヶ崎出身のケンカ上等ナイスガイ・水野学氏。

 有さんを介して知り合った楽しい友人たちの一人である氏に、終電間近の恵比寿の街で酔った勢いでこう切り出したのです。

「ずーっと、ずーっと、かっこいい名刺を持ちたいなー、と思ってるんです、僕。でも、初対面のひとに自分を紹介するためのアイテムに“オレの思うかっこいい”を詰め込むのって、なんかこう、押し付けがましいっていうか、初対面だけに、なんか違うなぁって気がしてどうも作れなかったんですよ。そんなんだったらロフトで50枚3000円の奴でいいやと思って、今までそれ使ってるんですけどね。

 でも、何かの縁で知り合えた、しかも、ビビッとキてしまったひとに、オレ像を名刺っていうちっちゃい紙の上に表現してもらえたら、初めてのひとに渡すにふさわしいステキな名刺が持てるような気がするんですよ。

 横文字職業ながら、茅ヶ崎のアツいヤンキーオーラを隠せないナイスガイ(この辺の発言が、酔っている)の水野さん!どうしてもあなたにお願いしたい。こんなオレの男名刺を、どうか作ってはくれませんか!」

「その、ロフト3000円名刺を見せてもらえますか?」

「あ、はい。これです。」

「……。桜井さん、あなたのような、人前に立って表現する方がこれを持っているべきではない。僕に預けさせてください。」

 酔った席での約束は絶対。そう、みうらじゅんさんもおっしゃっていました。次の日から早速メール攻撃。お忙しいことは100も承知でいやがらせのように話を前に進める俺。そうして。

 かねてから水野さんより話を伺っていた、真心好きだというグッドデザインカンパニーの若き才能・高田唯氏が具体的なデザインを担当してくれる運びに。数々のこだわりポイントやエロアイデア、そしてロゴの開発は彼の手によるもの。そうして、前述のいやらし~い名刺が完成したのです。

 裏面左下に連絡先等の情報を入れる際、唯氏に、

「住所と、電話番号と、メルアドをいれてください。」と頼んだところ、

「え、会社でなく、ご自宅の、ですか?いいんですか!?」と。

 このご時勢、もっともだと思います。

 しかしこの、すばらしくいやらしい名刺を完成させるには、こちらの腹の内を最初から見せるといった迫力がどうしても必要だったのです。つまり、営業用途の名刺ではなく、全くもって“オレ”を紹介するためのそれでなくてはならなかった。そうしないと、せっかくのいやらしさが台無しではないか。

 上述の女性とのアホやりとりは、これまたふとしたご縁で知り合った現在夜の銀座でご活躍中の源氏名Sさんとの会話。彼女は俺の記念すべき銀座デビューの扉を開けてくれるかもしれない、我が人生の重要人物となるかもしれない女性。そんな方に、オフィスの連絡先と会社から支給された携帯Noのみの名刺なんか、ぶったるくて渡せるものですか!そんなの持ったことないですが。ええ、家族の波紋を省みず、最初っから急所を差し出すのが、こんなご時勢の真のコミュニケーションではないでしょうか。そしてその心意気を受け取ってもらった瞬間に、新たなご縁が生まれるってえもんではないでしょうか。

 とはいえ時勢は時勢。そいつもまた、正面から受け止めねば。

 なので心ある友人達よ、いたずらはほどほどにね。お願い。




 ときに皆さま。今回の件に関しましては僕も無知であり、不勉強でありました。このページの主催者として、自らの世間知らずさに恥じ入るばかりです。ほんと、ごめんなさい。

 でもきっと、それでも、これからも楽しいことを求めて、いろいろやらずにはいられないと思うのです。

 遊ぶには、学ばねば。

反省&あくなき精進を誓います。皆さまどうか、これにこりずに、どうかまた僕らと遊んでやってくださいませ。

 ぃよろしくお願いしますです。