《桜井秀俊の任務》

ひとつ、歌を書くべし。

ひとつ、ステージ上手(客席より向かって右手)にてギターを弾くべし。

ひとつ、同所にてたまに歌唱すべし。

ひとつ、依頼あらば音楽制作各現場のお手伝いに赴くべし。




 私のポップミュージシャンとしての存在意義は、作曲やギター演奏等を通してよりグッドなコミュニケーションの何たるかを探ることであり、そのためにする具体的行動といったら、ほぼ上記のこんなカンジになります。そして私は、このような任務が大好きであります。

 ところが今年の後半は、フジロックでの現場にはじまり(7/29掲載「ビューティフル・サタデー」参照)、主な任務を高度に応用せねばならぬ厳しい現場に、しかも複数、立ち向かわざるを得ない期間とあいなってしまいました。いうなればピンチがたくさん予定に組み込まれている状態。




 ~その一、9・17北海道は倶知安でのイベント“JUNK!3”~

 “ポテ伊東とハッピー&八熊”なるグループがあります。奥田民生(Vo,Ag)、八熊慎一(Vo,Bass)、YO-KING(Vo,Ag)の三氏からなるフォーク・ユニット(と言っておきましょう)。詳しいことは置いておいて、私、このグループの大ファンであります。何がいいって、前代未聞のユルさが痺れるほどに良いのです。バンドの一側面としてユルさが存在するのでなく、ユルさを肝としてバンドが存在し、ユルさを中心として音楽の喜びが存在している。ユルさが迫力さえ備えている。お前もいい加減ユルいぞとお思いでしょうが、彼らの凄みの前には俺なんか青い青い。足元にも及びません。

 人間、舞台に上げられてライトのひとつも浴びれば、ベストもしくはそれ以上を望んでじたばたあがいてしまうもの。それを、微塵の緊張も欲も見せずに、脂っこいギャグを交えつつ淡々と歌う三氏。MCにおいては、打ち合わせを重ねた末にわけがわかんなくなったと思われる崩壊が、何度となく勃発する。それを不愉快と思わせるどころか、このユルさをもって来場した全員の心が満たされているという常識破りの事実。それは、このお三方の男っぷりによるところが全てであると、私、考えます。どうしたらここまでの男レヴェルに到達できるのでしょうか。同性として、はなはだ羨ましく思う俺であり、したがって、このバンドの大ファンであると声を大にして言える俺なのであります。

 それが、こともあろうに。

 YO-KING氏に代わり、なんとこの俺がかのグループのメンバーとして舞台に上がることになったのであります。本番当日、たまたま他の現場が入っていたキングさんに代わって、当日全く暇であった俺に、あいつがダメならこいつでと立った白羽の矢。事の成り行きもさすがなユルさ。

しかし俺にとってこれは大問題であります。ステージ上できゃんきゃん吠える子犬のように落ち着きのない俺になるのか、兄さん方の貫禄を微塵でも分けてもらい男レヴェルを上げるチャンスの現場になるのか、さんざん悩んだ末に、謹んでお受けいたしました。さんざん悩む俺にスタッフの方々は、

「何をそんなに悩んでんの?」

 と、不思議がります。このユルさに参加する難しさをスタッフをして気づかせないほどに、あなたがたのユルさは洗練されており、本物だ。ビビるな、俺。行け、俺。ウルトラ・リラックス(1997、篠原ともえ)。

 後日、資料としてDVDを頂きました。宛名に「しし伊東さま」とあります。“ポテ伊東”改め“しし伊東とハッピー&八熊”となったのでしょうか。宛名にこうあるということは、私のコードネームが“しし伊東”ということでしょうか。いきなりの先制パンチ。兄さん、早速ユルうございます。

 さらに後日、とあるフェス現場にて民生兄さんと談笑。互いにビールを傾けつつ、

「あ、そういえば、俺“しし”なんすよね。この度はぃよろしくお願いしますぅ。」

「あのね、それ、名前、変わったから。“しし”じゃなくてね、“なで肩のとっつぁん”。」

「なで肩の、とっつぁん…ですか。」

「そう。“なで肩のとっつぁん”。」

 兄さん、キャラが作りにくうございます。

 “なで肩”であることに重きを置いて、いちいちストラップを直す等の小ネタを繰り返すのか。“とっつあん”部分に重きを置いて、軽くモノマネを要求されているのか。どっちにしろ、駄じゃれにも程というものが…。兄さん、はなはだユルうございます。旨そうにビールを飲み込むあなた。ユルくて、まぶしくすらあります。

 8月も終わろうという今日この頃。このプロジェクト、バンド名を含め未だに何にも決まっておりません。あせるな、俺。ここでうろたえてはすでにメンバーとしての資格を失ったも同じ。どっしり構えるのだ。“とにかく気にしない”という舞台は、すでに始まっている。

 秀俊、ウルトラ・リラックス。




~その二、10・1川崎クラブチッタ~

 真心ブラザーズのライブサポートバンドであるMB’sがメンバー不動のまま活動10年目を迎えたことを記念して私自ら企画したこのイベント。MB’sメンバー各々が主催するバンドが一同に介し、それぞれの素晴らしいパフォーマンスを楽しんでもらおうというこのライブにて、真心ブラザーズの演奏を担当するのは勿論のこと、イベントの総合司会という大役を任せられる羽目に。友人の結婚式の2次会とかならちょこちょこやった経験はあります。ありますが酔っ払った親しい友人達の前で司会進行するのだって結構なプレッシャーがかかるものなのに、見ず知らずのシラフなお客さん千数百人を相手に、それぞれのバンドを気持ちよく送り出すなどという芸当が果たして俺にできるのか。

 しかも、アシスタントはベースの一郎君に決定。一郎君は、前歯が一本ない。最近、差し歯を入れたのだが、色といい質感といい周りの歯と全く合っておらず、歯がないよりも面白い。顔を見ると笑ってしまうから口を閉じていてくれないかと頼むと、必要以上に真一文字に結んだ口で眼だけをきょろきょろ動かすので、更におもしろくなる。そうなると、一郎君は体がデカいとか、一郎君は髪の毛が多いとか、そんなことだけをもってしてもなんだかおかしくなってきて、笑いがこみ上げてしまう。

 特に何をするわけでもない一郎君が、いやむしろ何もしなければしないほどお客さんの目は一郎君に釘付けになるだろう。ぴーちくぱーちく頑張る俺のあずかり知れないところで発生する笑いは、俺を簡単に不安の谷底へ突き落とすに違いない。考えただけで、ブルー。

 しかも、他のバンドのサポートギターも頼まれそうな気配だし、ステージ転換に手間がかかりそうな時間帯に、なんかひとネタやんなきゃかもだし、打ち上げは100人ぐらいになりそうだし(これはよいのですが)、や、忙しい一日になりそう。

 忙しいのはともかくとして、司会。これはライブ現場におけるMCを高度に応用させたものと見つけたり。すなわち、ライブ演奏の合間のおしゃべりもこれ、会場の空気をうねりに換える重要な手段のひとつ。そのときその場でなければ生まれ得ない言葉と言葉をつづれ織って、楽器を使用しない音楽を奏でている時間なのです。ええ、どんなに拙かろうと、どんなにグダグダであろうとも、です。そのときその場の、それが真実なのだから。そして、機が熟せば楽器を、マイクロフォンを手に取る。それが、MC。

 そんな気持ちで司会進行ができたら、俺は21世紀のエド・サリバン。急に大きくでましたが、これぐらいの気概なくして、どうして舞台に上がれましょう。それほどまでに一郎君は、手ごわい。




 ~その三、11・2渋谷duo MUSIC EXCHANGE~

 5月のツアーのどこかでの打ち上げの席だったでしょうか。YO-KING氏が突然、

「あのさあ、俺、桜井が全曲歌うライブっつーのを考えてるのよ。ソロの曲とかはナシで、あくまで真心のライブ。だから俺は常にステージにいるんだけど一切歌わないの。真心ももう17年やってんだから、いい加減曲数はあるっしょ。サマーヌードとか、桜井作品で普段俺が歌ってんのもダメね。あくまで今まで真心名義で発表したなかで、桜井がボーカルをとった曲だけ演んの。当然、ワンマン。最初っから最後まで、桜井の立ち位置はどセンター。」

 いささか酒が過ぎたか何を言い出すかキングさんよ、と笑い飛ばしたものの、場の空気はなにやらノリノリノ方面へ。スタッフの皆さんともども時期はいつごろが適切だとか場所はどこがふさわしいとか、妙に突っ込んだところまで話が及んでいる。俺は最後まで発言する機会を与えられませんでした。

 明日になれば消えているだろうとタカをくくっていた俺。全くもって甘うございました。ニューカムの真心トップページを参照されればお分かりいただけると思います。キング氏によるアツいアツいあおり文句。アツいのに最後の最後で「頼む、咲いてくれ!」と哀願しているのが若干弱気で引っかかるところ。最終的には、言いっ放しの放置プレイなのですか?

 わざわざ「*YO-KINGは演奏とコーラスのみの出演となります。ご注意ください」なる注意書きまである。「注意」という表現に、関係者のいたずら心が垣間見える。それは、いい。しかし、値段。SSで¥5,500、立ち見でも¥4,500とは、けっこう取るね。これ、引っ込みつかないよね。この件に関して一言の口出しも許されぬまま、俺、この状況。

 先日、我が家にいらしたせいこうさんも、この話に異様に食いつき、

「それじゃ桜井、その日のために新曲書かないと!」

 と、ほぼ命令に近い口調でおっしゃられていました。またひとつ、課題が上乗せされたかたちに。




 そういうわけで、しばらく山ごもりでもしたいぐらいの私であります。

 まだまだ難度の高いミッションが転がり込んできてはいるのですが、いい加減長くなってしまったので、それはまた次の機会に。

 みなさん、頼む。聞いてください。