昨日関東上空に訪れた二つの低気圧。冷たい雨に我が家の庭も濡れ、日課のハーブ(という名の防人)への水やり(という名の兵糧補給)も一休みでした。「PLANTED」編集部の皆様、その節は大変お世話になりました。お陰さまであれからテキは一度も姿を見せていませんよ。

 ハーブ水やりは一息ついたものの、今年後半の高難度ミッションは佳境を迎えております。

 来る11月2日、渋谷頂上決戦。全曲桜井秀俊歌唱による真心ブラザーズのワンマンライブという俺にとっちゃあ驚天動地の企画。

 聞くところによると、チケット発売後ものの数分で全席売り切れてしまったとか。や、まことに嬉しい限りのことなのです。なのですが。

 出演者も主催者一同も予期せなんだこの事態。マネージャーK山Tもつ氏(ギャンブルがないと生きている実感を持てない男)はそれ以来、呑み屋において大好物のビールをぐっと飲み干しては毎度毎度、

「ぃやぁ、それにしても桜井祭り、もっとデカいハコ押さえときゃよかったなァ。大阪もやりゃよかったか!」

 とのたまい、同じく女子マネージャー通称エンジェル(月給の大半を洋服とコスメに投入する女)に至っては、

「私はチケット代1万円取りたかったわ!」

 とのたまう始末。

 カネ、かね、金、Moneyが全てかビジネスマンたる人種たちよ。悲しいかな堀江・村上逮捕以降もこの国を覆う拝金主義が自分の周りをも食い尽くしているようです。「モノは同じで値は高く、吊り上げといて売り抜けろ」、市場原理はそうかもしれませんが、実際にモノを作出する人間には別のモノサシがあるのです。ふろしき広げるんなら中身も相応に。そして、内容に関する業務責任は殊に今回はほぼ私のなで肩にかかっておるわけで。

そう訴える俺にK山氏は一言、

「じゃあ中身もなんとかしてよ。」

 それはもう、明日までに身長190cmになれといわれるに等しく。あの人は、鬼です。

 その内容を導く要人たるプロデューサー・Yo-King氏。普段はパフォーマンスのど真ん中に立つ彼が一曲たりとも歌わぬということは、それはそれで彼にとって慣れぬ舞台になるであろうことに変わりなく。結構大変だと思うのですが…。

ところが、ある楽曲においてドラムをプレイしたいと言った彼に僕が、

「いいけど、あれ、ドラムすんごい難しいよ。」と答えたところ、

「やってみて、遠いようならビバさんに交代してもらうってことで。」

「……。そんなもん?」

「うん。時間もないし。」

 …キングさん。今回の曲目群、今風に言うならセットリストってえ奴には、変拍子や複雑なコード進行並びにとっても覚えにくい覚えるべきテーマのフレーズにおかしな楽曲構成がてんこもりでございます。ギター弾いてみて、遠いようならそれは誰が交代するのでしょうか?俺でないことを祈るばかりです。

ギターをぶら下げて譜面とにらめっこしながら固まり続けるYo-Kingにセンターで終始舞い上がりっ放しの桜井。「単にお互いの長所を潰しあっているだけの2時間だったね」。そんな事態だけはなんとしても避けなければなりません。キングさん、お願いします。ご存知のように、もう時間はないのですが。

 そして、せいこうさんからの限りなく命令に近い提案であるところの、その日のための新曲制作。

 先日あるラジオ番組にてパーソナリティーの方の、

「収穫の秋!というテーマで番組を進行しているのですが桜井さん、この秋の収穫は何かありましたか?」なる問いに、

「そーですねぇ、実はかくかくなライブがありましてしかじかな曲を書かなければいけなかったのですが、先日、すんごいのが出来ちゃいました!大名曲誕生!この秋は大豊作ですよ!」と答えた私。

 FM大阪のみなさま、真心ブラザーズ関係者一同さま、そしてリスナーのみなさま、大変申し上げにくいのですが…。

 私、嘘をついておりました(1990年初頭の明石家さんまさんより)。

 言ってしまえば出来るかなーと思って。でもね、俺、甘かった。‘言った’という事実は、それ以上でもそれ以下でもなかった。

そんなことを学んでいる場合ではないのです。嘘を嘘でなくするには、黒を白と言い通すにはたったひとつ、ふさわしい新曲を書き上げることのみ。

 そうなのです。ついついひとりでかかえきれなくて思いをぶちまけてしまいましたが、パソコンカタカタしている場合ではありませんでした。手にギターを、唇に歌を。

 かわいた雑巾、絞ってくるぜ。神よ、我に力を。神頼みなのか。